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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

yomiDr.記事アーカイブ

少数精鋭・総合診療医集団、離島の高水準医療を支える

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 今日は、隠岐の島のお話です。

 今年は夏休みをまったく取っていなかったので、先日、ひとりで隠岐の島に行ってきました。隠岐の島は、島根半島の約50kmほど北側にある島々の集合体です。後鳥羽上皇が承久の乱(1221年)の後に流されたり、後醍醐天皇が建武の新政(1333年)の前に流された場所として歴史的にも有名です。周囲は日本海ですので、海の幸はとても美味おいしいのです。そしてカルデラがそのまま残る隠岐で一番大きな島、テレビの天気予報などで丸く映る島が、島後といいます。そしてカルデラの外輪山の一部が海底に沈み、外輪山が取り残される形で3つの島がある島前諸島があります。そんな日本では通常見られないような風景ですので、世界ジオパークにも登録され、最近は外国の観光客の方も多いという隠岐です。

院長の人柄に惹かれ…隠岐島前病院を訪ねた

 さて、僕は夏休みを利用して尋ねましたが、目的は観光ではなく、島前にある隠岐島前病院を訪ねるためです。なぜ隠岐島前病院かというと、たまたま面白そうな医学書をネットサーフィンしていて、魅力的なタイトルの本に出会ったのです。その書籍名は、「離島発 いまから使える! 外来診療 小ワザ 離れワザ」というものです。僕は30年近く医者をやっていて、大学病院にいる関係から、またなんでもできる医者になりたいがためにその昔、外科医を志した経緯から、そしてセカンドオピニオンから漢方にも深い興味を持った経緯から、たくさんの専門医や指導医を持っています。そんないろいろなものに興味がある僕が、心かれるタイトルでした。そして著者の白石吉彦という方をネットで調べると、日本医師会の「赤ひげ大賞」も受賞している先生です。早速、注文して、そして届くやいなや、一晩で読み終わりました。そして何度も読み返しました。それぞれに含蓄があり、僕が知らないことがたくさん書いてありました。面白そうな医療書でも、通常はすでに知っていることがほとんどです。数か所でも新しい知識があると、書籍を購入した意味があると思うのですが、この本は本当にたくさんの新鮮な知識が書いてありました。そして、そのなかのコラムからこぼれ落ちる白石吉彦という人の人柄に妙に興味を持ったのです。

環境を楽しみながら…素晴らしい地域医療の推進者

 そこで、隠岐島前病院宛にメールを送り、白石院長からメールを頂き、ちょうど中国地方で僕の講演がある週に実際に白石院長の外来を見学する計画を、あっと言う間に立てました。それを敢行したのが、先日です。羽田から飛行機で米子空港に到着し、フェリーで隠岐の島に到着すると、院長先生自らが迎えて下さり、そこから濃密な3日間が始まりました。本当に僕の臨床にはプラスになることばかりでした。そんな僕のプラスになったことは、今回のコラムでは省略なのです。書ききれませんからね。一方で同じように感激したのは、隠岐島前病院を見学に来ている学生諸君と彼らを指導する、むしろ歓待する白石院長の素晴らしさでした。医学生や看護学生がたくさん訪問するそうです。そうだろうなと思いました。だって、白石院長とお話をしていると本当に楽しいのです。彼は臨床を楽しんでいるのです。そして院長として地域医療の推進者として、活躍しています。

 そんな地域医療の話をすると、私を没して、自己を犠牲にして、歯を食いしばって献身的に貢献しているように思えますよね。それが違うのですね。隠岐というところを、そして自分の環境を抜群にエンジョイしています。家族を大切に、そして自分の趣味を大切に、そしてもちろん仕事も同僚も、病院の職員も、町の人たちを大切にしている姿が印象的でした。

6人が6000人を診る

 隠岐島前諸島の人口は約6000人で、開業の医師はいません。医者は隠岐島前病院の6人だけです。つまり、患者さんに他の医療の選択肢はありません。生まれてから死ぬまでのすべての経過を知っているのです。医療水準もすばらしいですよ。ドクターヘリがありますので、手に負えない患者さんは本土に移送できます。しかし、6人で6000人を診るには、専門医だけの集団では不可能なのですね。つまり6人全員が総合診療医でした。本土から専門医は定期的に応援には来ますが、基本は総合診療医の集団が町の医療を支えているのです。

 隠岐にはUターンで戻る人、またIターンで自分なりの人生設計を描く人など、いろいろな人がいます。医療の水準が隠岐のように担保されていれば、大都会、大都市で疲れている人、また新しい人生を始めたい人々にはひとつの選択肢になると思ってしまいました。楽しい隠岐の思い出です。また何とか機会を見つけて訪れたいと思っています。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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