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[動き出す予防医療]病原体遺伝子検査、数分で

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 韓国での中東呼吸器症候群(MERS)による混乱、エボラ出血熱の再燃、日本国内でのデング熱の発生など、感染症の脅威はいまだに私たちの身近にあります。

 感染症は、昔から予防医療の重要な課題でした。一歩進んで、かかってしまった疾患の「悪化を予防する」ことも予防医療の重要な側面です。感染症の場合、どんな病原体に感染しているのかを特定することは、悪化を予防する上で最も重要です。それによって、治療法が決まるからです。

 病原体検査の方法はいくつかありますが、その一つが遺伝子検査です。これは、私たちの遺伝子ではなく、病原体の遺伝子を検出するものです。病原体は生物なので、固有の遺伝情報をもっています。そこで、各病原体の遺伝情報の特徴的な部分を検出することで、病原体を特定するのです。一般に遺伝子検査は、すべての病原体を、高感度かつ正確に検出できるという利点があります。このため、他の方法と比較して、感染の初期に診断できるのです。

 一方、韓国のMERSでは、遺伝子検査に要する時間が問題となりました。結果が発表されるまで実質一日以上かかったことで、国民の不安が募りました。検査の間に、感染が拡大したり、感染者が最適な治療を受けるのが遅れて症状が悪化したりする危険性があります。そこで、病原体の遺伝子を迅速に検査する方法が開発されています。最近では、検査の全工程を数分から30分以内で行えるようになってきました。さらに、現在は病院の検査室でしか行えない遺伝子検査をベッドサイドで手軽に行えるようにする取り組みも進んでいます。今後、私たちの生命を脅かす感染症との闘いの様相が少し変わるかもしれません。

(林崎良英・理化学研究所プログラムディレクター)

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