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医療部発

コラム

執刀医と教授は遺族と社会に説明を…群馬大腹腔鏡手術問題

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 私がこの問題の取材を始めてから、すでに1年以上が過ぎました。これまでの間、多くの取材をし、たくさんの記事を書いてきましたが、いまだにわからないことがあります。問題の執刀医はなぜ、患者さんの死亡が続いていたのに、検証もせず手術を続け、死亡例を重ねていったのだろうか、ということです。

 この執刀医による肝臓の腹腔鏡ふくくうきょう手術を受けて亡くなった患者さんは8人。そのうちの多くのご遺族に、手術前後の様子についてお話をうかがいました。どの患者さんも手術後は大変苦しみ、おなかの中で大量の出血をしたり、感染による高熱など様々な症状にさいなまれたりしながら、痛ましい最期を遂げられていました。生前の患者さんと面識があったわけではない私も、悲しみや怒り、悔しさでいっぱいになりました。

 多くの方ががんで、おそらくそんな手術なら受けないでいたほうが、むしろ苦痛は少なかったのではないか。家族と楽しく語らい、したいことをする時間を奪われてしまったのではないか。お話を聞いただけの私でさえ、そんなふうに考えを巡らし、とてもやりきれない思いになったのに、ご本人の無念さは、そして愛する人の苦痛に満ちた日々に寄り添ったご家族のつらさは、どれほどのものでしょう。想像もつきません。

 何人もの患者さんやご家族が、このようなつら過ぎる体験をすることになったのは、なぜでしょうか。執刀医は、まだ真相を明らかにしていません。何らかの形で、なぜこのようなことになったのか、なぜもっと早く止めることができなかったのか、語ってほしいと思います。いえ、語らなければならないのです。

 彼を知る人に取材してきた限りでは、執刀医は、口下手で不器用だけど、まじめな努力家で、従順な性格だといいます。ずるく立ち回って得してやろうとか、そんなこと考えそうにない「いい人だ」という人もいました。そんな彼がなぜ。疑問は尽きません。

 彼の上司であった診療科長の教授も、社会に対していまだ何も説明していません。普通だったら、病院長とともに記者会見に出て説明し、記者の質問に答えるべき立場ではないでしょうか。なんといっても責任者なのですから。教授の人物評は、「外科の教授にしては珍しく、親しみやすい気のいいおじさん」といったものが主です。教授としての仕事ぶりのほうは、どうだったのでしょうか。群馬大はなぜ、責任ある立場の教授に、きちんと説明させないのでしょうか。私の知り合いのお医者さんたちも、この点を非常にいぶかしく思い、厳しい見方をしている人ばかりです。

 8月30日から、外部委員で構成される新しい事故調査委員会が調査を始めました。調査では、執刀医や教授、遺族からも直接、委員が話を聞くそうです。調査が真相の解明に近づき、再発防止に生かせるものになることを願い、今後も取材を続けていくつもりです。

 群馬大病院の腹腔鏡手術問題

高梨ゆき子
社会部の遊軍・調査報道班、厚生労働省キャップなどを経て、2008年12月から医療情報部(現医療部)。15年、群馬大病院の腹腔鏡手術を巡る報道で新聞協会賞受賞。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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1件 のコメント

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当該病院について

ひーた

私はこの病院を担当しているメーカー担当者です。個人的な意見ではありますが述べさせて頂きます。 はっきり言って記事に書かれているように院内でも大事...

私はこの病院を担当しているメーカー担当者です。個人的な意見ではありますが述べさせて頂きます。
はっきり言って記事に書かれているように院内でも大事として捉えられているとは感じません。ガイドラインに関しても遵守しなければならないという意識は乏しく、何かあってもメーカーの責任というスタンスが非常に強いと感じます。こちらがそういった情報を伝えても怪訝な対応を取られます。こんな時だからこそ、きっちりとガイドラインや法令を何としても遵守して立て直さなければならないという意識を持つ事が当たり前ではないでしょうか。

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