医療部発
医療・健康・介護のコラム
「歯科の水に細菌」で患者は大丈夫?
8月27日付の夕刊で掲載した「歯科治療・水に細菌」について、「本当なの。信じられない」との声が寄せられました。
「歯科の水」は、歯を削っている時にドリルのところから出ている水です。終わったときに、歯科医から「口をすすいでください」といわれて、口に含むコップに入った水もそうです。
歯医者さんにかかる人は気になるのではないでしょうか。記事で書ききれなかった部分も含め、Q&Aで答えてみようと思います。
――歯科の水に多くの細菌が入っているって本当?
歯科治療は一般的に、普通の水道水が使われています。水道水には、わずかに細菌が入っており、治療機器内に長い時間滞留することで、国が定める水道の水質基準をはるかに上回る数に増殖します。
治療に使う水に多くの細菌が入っているという事実は2000年ごろから、国内の歯科大学などの研究で数多く指摘されています。
――歯科治療で多くの細菌が口に入っても大丈夫なの?
水道水には病原性が強い細菌が入っておらず、すぐに病気になる心配はしなくてもいいでしょう。歯科の水が原因で病気になったという報告もありません。口の中には元々、数多くの細菌が棲んでいます。いわば細菌とは共生しているわけで、多少、細菌が入っても問題はないと思われます。
ただ、病気や加齢などで免疫の働きが衰えた人は、体内の細菌が増殖して発熱などの症状が出る日和見感染症を起こす心配があるとされています。歯科治療は口の中で出血を起こす時もあり、免疫が衰えた時に血液中に多くの細菌が入ると、重い感染症となる危険も全くないとはいえません
そう考えると、歯科治療で使う水は細菌が少ないほうがよいのは間違いなさそうです。
――消毒する施設が少ないのはどうして?
前に書いたように、多くの細菌が口の中に入っても、健康な人には問題がないと考えられているからです。
しかし免疫機能が衰えた人は、細菌が体内に入ることで重い感染症につながる心配があります。そのためアメリカは、感染症対策を行う政府の疾病予防管理センターが歯科治療で使用する水の細菌数を1ミリリットル当たり500個以下にするように推奨するガイドラインを出しています。
日本では、そうした歯科に関する水質基準をガイドラインなどで明確にしていません。対策は個々の歯科医の考え次第で、現在にいたっています。
――でも水道の水質基準は守らなくてはならないのでは?
厚生労働省は「歯科で使う水も、水道法の水質基準を満たすことが重要だ」と話しています。これには、診療前に治療機器にたまった水を排出すれば、細菌が少ない新鮮な水道水で治療を行うことができるため、まずは水のこまめな排出が大事です。
ただ、ここにも問題が残っています。
全国には約6万8000の歯科診療所がありますが、この中には、メンテナンスが悪く、機器内に多くのバイオフィルムが付着している施設もあると考えられます。そうしたクリニックで水の排出だけで、治療機器からきれいな水道水が出てくるか疑問です。
水の排出だけでは水質基準を下回る細菌数にならなかったとする研究結果もあります。アメリカのメーカーなどは消毒液を注入するチェアを作っていますが、これは水の排出だけでアメリカ国内の基準をクリアできないと考えられているためです。
――日本でも消毒システムは必要なの?
すでに消毒システムをはじめとする細菌対策をうたったクリニックは国内にあります。細菌が気になる人はそうしたクリニックを選んでもいいでしょう。
一方、日本は、海外に比べ水道水がきれいなので、消毒液の注入は必要がない、という歯科医師もいます。水のこまめな排出と、しっかりした機器のメンテナンスで対策は十分という考えです。
消毒液の注入は費用がかかります。「院内感染対策としては、水よりも治療機器(ハンドピース)の患者ごとの交換が大事」という意見もあります。費用対効果も考えなくてはならないポイントです。
厚労省は来年度以降、水の細菌対策を研究するとしています。対策は費用対効果も含め、検討される見込みです。実のある対策が示されるといいですね。
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渡辺理雄 |
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