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[動き出す予防医療]遺伝情報 健康管理に生かす

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 「体質」という言葉は、様々な場面で使われます。社会組織の体質が問われることはしばしばあります。組織の体質は、改革できますが、私たちの体質は、努力では変えられない性質のものです。

 私たちの体を構成するすべての細胞の中には、両親から受け継いだ一式の遺伝情報がDNAという物質として入っています。これが、目や髪の色などの体の特徴や、ある種の疾患のリスクなどの「体質」を規定します。この遺伝情報は、受精した段階で決まるもので、一生変わりません。

 こうした体質の一つに、がんの感受性があります。乳がんを例に説明します。細胞分裂やDNA複製の過程では、遺伝情報の読み間違いが起こることがあります。また、放射線・紫外線など外的な要因でDNAに傷(変異)ができることもあります。人の細胞には、このように新たに生じたDNAの傷を正しく修復する機能が備わっています。この修復機能の一つが、BRCA1やBRCA2が複数のたんぱく質と共に形成する複合体です。ところが、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんのように、両親から修復機能が弱い遺伝子を受け継ぐと、無限増殖に導くがん遺伝子の変異が起きても傷が修復されず、がん細胞が発生しやすくなります。この遺伝子変異をもつ家系では、乳がんの発症率が高いことが知られています。

 私たちは、「がん家系」という言葉を避けたり隠したりする後ろ向きの精神風土を持っています。個人のゲノムを変更できない現実を考えると良く理解できます。しかし、考え方を変えてみると、例えばお母さんや血縁者の方が乳がんと闘ったという経験は、親世代が子供世代へ教えてくれた健康管理のための貴重なメッセージでもあるのです。(林崎良英・理化学研究所プログラムディレクター)

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