原記者の「医療・福祉のツボ」
医療・健康・介護のコラム
貧困と生活保護(7) 孤立を防ぐ「ゆるいつながり」
貧困は、もともと経済的な貧困、つまり、お金が足りないという問題を意味していました。けれども、現代の貧困=生活困窮は、経済的な面だけではとらえきれません。
「関係の貧困」も重要な課題になっています。人とのつながり、社会とのつながりの乏しい人が増えており、それが生活の困難や破綻、精神的な危機につながることがあるわけです。
死後数日以上たってから見つかる高齢者の「孤独死」や、複数世帯でも周囲に気づかれずに亡くなっていた「孤立死」がしばしば報道されています。自殺や、心中をはじめとする刑事事件、児童虐待、高齢者虐待、障害者虐待も、孤立が一因になっていることが少なくありません。
本人が助けを求めていたら、誰かが手を差し伸べていたら、どこかで社会制度を利用できていたら、福祉的な支援を受けていたら……。
対策を考える前提として今回はまず、家族と地域社会の変化を押さえておきたいと思います。
単身世帯、夫婦のみ世帯が大幅に増えた
社会的な孤立が問題になってきた背景のひとつは、単純なことで、ひとり暮らし、あるいは少人数の世帯が増えたことです。
厚生労働省の「平成25年国民生活基礎調査」と、それをもとに同省がまとめた「グラフでみる世帯の状況」で、1975年と2013年のデータを比較すると、次のようになっています。
– | 1975年 → 2013年 (推計数) |
単独世帯 | 18.2% → 26.5% (1328万5千世帯) |
夫婦のみ世帯 | 11.8% → 23.2% (1164万4千世帯) |
夫婦と未婚の子のみの世帯 | 42.7% → 29.7% (1489万9千世帯) |
ひとり親と未婚の子のみの世帯 | 4.2% → 7.2% (362万1千世帯) |
三世代世帯 | 16.9% → 6.6% (332万9千世帯) |
その他の世帯 | 6.2% → 6.7% (333万4千世帯) |
「単独」「夫婦のみ」「ひとり親と未婚の子のみ」の世帯が大幅に増える一方、「夫婦と未婚の子のみ」「三世代」の世帯は大幅に減っています。
「夫婦と未婚の子」という核家族は、もはや標準的ではありません(しかも、この数字には子が中年以上の場合も含まれる)。サザエさん一家のような三世代同居は、珍しくなったのです。
なお、すべての人を対象にする国勢調査では、単独世帯がもう少し多く、2010年調査で1678万5千世帯。施設や病院などで暮らす人を除いた一般世帯の32.4%を占めていました。
子ども夫婦と同居する高齢者は1割台になった
次に、65歳以上の人が、どんな家族形態で暮らしているかを見ると、以下の通りです。
– | 1975年 → 2013年 (推計数) |
単独世帯 | 8.5% → 17.7% ( 573万0千人) |
夫婦のみの世帯 | 19.6% → 38.5% (1248万7千人) |
子夫婦と同居 | 52.5% → 13.9% ( 449万8千人) |
配偶者のいない子と同居 | 16.5% → 26.1% ( 845万2千人) |
その他の親族か非親族と同居 | 3.0% → 3.8% ( 122万6千人) |
「単独」「夫婦のみ」が大幅に増える一方、かつて半数を超えていた「子夫婦と同居」は極端に減りました。高齢者は、ひとり暮らしか老夫婦だけで暮らすほうが一般的になったのです。高齢者のみの世帯は、2013年の調査で全世帯のうち23.2%(1161万4千世帯)を占め、和歌山県は30%を超えています。
「配偶者のいない子と同居」がかなり多いことも目をひきます。子の非婚・離婚のほか、成人した子が障害やひきこもり、親子とも高齢者というケースも少なくないと思われます。
老親と子の同居が減ったことに対し、「子どもが面倒をみる美風が消えた」などと道徳の復活を説く人もいますが、実際は、親のほうが同居を望まなくなってきたのです。
内閣府の「老後の生活に関する意識調査」(2006年)によると、親世代で別居を希望する人は35.9%。理由で多いのは「生活習慣が違うから」「お互い人間関係の面で気をつかうから」「子ども世代に迷惑をかけたくないから」「お互いのプライバシーを大切にしたいから」の順でした。
自由な生活とプライバシーの確保を望み、かつての嫁-しゅうとめ関係のようなあつれきを避けたいわけです。住み慣れた土地で暮らしたい親と、子の勤務地の食い違いもあります。
無理を求めるのではなく、家族のありようが大きく変わった現実を踏まえるべきでしょう。
薄くなった地域の人間関係
地域のつながりが希薄化したと、よく言われます。この問題を扱った内閣府の「平成19年国民生活白書」によると、同省の「国民生活選好度調査」で、隣近所とのつきあいの状況は、次のような結果でした。
<隣近所とのつきあい> | 2000年 2007年 |
よく行き来している | 13.9% → 10.7% |
ある程度行き来している | 40.7% → 30.9% |
あまり行き来していない | 23.1% → 19.4% |
ほとんど行き来していない | 18.4% → 30.9% |
あてはまる人がいない | 3.9% → 7.5% |
近隣住民とのかかわりが少なくなってきたのは確かです。なぜでしょうか。
もともと日本は農村が中心で、農業は地域での協力が欠かせず、時間の融通もききました。しかし工業化に伴って農業、農漁業、自営業の人が減り、勤め人が増えました。勤め人の多くは通勤するので、日中は居住地域にいません。深夜労働、長時間労働だとなおさらです。さらに夫婦共働きが増えました。都市部へ人口が移り、個別性の高いマンションやアパートに住む人が増えたこと、単身者が増えたことも、近隣住民のつきあいが減った一因でしょう。
濃いつきあいは望んでいない
では本当は、もっと近所とかかわりを持ちたいのか。そうではないようです。
NHK放送文化研究所の「日本人の意識」調査によると、隣近所の人との濃いつきあいを望む人は、減ってきました。
<隣近所の人との望ましいつきあい方> | 1973年 2013年 |
会ったときにあいさつする程度のつきあい | 15.1% → 27.6% |
あまり堅苦しくなく話し合えるようなつきあい | 49.8% → 53.8% |
なにかにつけ相談したり助け合えるようなつきあい | 34.5% → 18.1% |
親類についても、濃いつきあいを望む人は減りました。
<親類との望ましいつきあい方> | 1973年 2013年 |
いちおうの礼儀を尽くす程度のつきあい | 8.4% → 24.2% |
気軽に行き来できる程度のつきあい | 39.7% → 42.2% |
なにかにつけ相談したり助け合えるようなつきあい | 51.2% → 32.4% |
人間同士、どうしても相性の合わない人はいます。また、プライベートなことを尋ねられたり、うわさされたり、口出しされたりするのはいやなものです。葬式や行事もしょっちゅうあるとわずらわしい。農村部から都市部へ人が移動したのも、雇用の問題に加え、「ムラ」の濃密なつきあいを好まないことが関係しているはずです。
深いつきあいはうっとうしい、災害を含め、困ったときに助け合えたらいい、というのが多くの人の本音ではないでしょうか。その意識に逆らうのは、無理があります。
孤立を防ぎ、困っている人を見つける手だてとして、「地域福祉」「地域のつながり作り」が強調され、その柱に自治会・町内会が位置づけられることが多いのですが、日常的な住民同士の関係は、ゆるやかなほうがよい気がします。
むしろ趣味、スポーツ、生涯学習、ボランティア、福祉サービスといった、自分で選べるつながりの場を増やす。同時に、困った時にSOSを出しやすく、すぐに助けられるしくみをどうやって築くかが課題でしょう。
自殺の少ない地域の研究から
和歌山県立医大講師の岡
・ | いろんな人がいたほうがよいという価値観がある |
・ | 出自や学歴にこだわらず、人物本位で他者を評価する |
・ | 自分にも世の中を変えられるという意識がある。どうせ自分なんて、と思わない |
・ | 困ったときは、恥ずかしいと思わず、助けを求める |
・ | 淡泊な人間関係。他者に関心は持つけれど、監視はしない |
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