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ダウン症の子、育てる親の思い

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仲間と助け合い、前向きに…葛藤経て成長楽しむ

 妊婦の血液検査で、ダウン症など胎児の染色体の病気の可能性を調べる新型出生前検査を受ける人が増えている。一方で、ダウン症の子どもの育児に前向きに奮闘する親もたくさんいる。子どもたちとどのように向き合っているのだろうか。

 お前はお前のペースで、ゆっくり歩め――。

 詩人として活動する横浜市の服部剛さん(40)は長男の周くん(3)がダウン症と告げられた翌日、動揺する気持ちを抑えながら詩を詠んだ。

 ダウン症の子どもは心身の発達がゆっくりだ。周くんは、まだ歩くことも話すこともできないが、服部さんは「いつかは歩けるようになる。成長が楽しみです」と話す。

 妻のりえ子さん(47)は「これまで様々な葛藤がありました」と振り返る。妊婦健診で「赤ちゃんの動きが悪い」と指摘され、妊娠34週で帝王切開。新生児集中治療室で4週間過ごし、ダウン症と診断された。「どうして元気な赤ちゃんを産めなかったのだろう」。りえ子さんは自分を責め続けた。

 寝返りを打ってくれない、離乳食をやめられない。1歳になっても生後3か月の子どものようで、育児書通りに成長しない。相談できる相手はおらず、精神的に追いつめられた。

 父親の介護も重なり、昨年から周くんを本格的に保育園に預けることになった。すると、少しずつ変化が見られるようになった。ご飯を食べていると「うまっ」と言葉を発したり、つかまり立ちを始めたり。りえ子さんは「友達から刺激を受け、成長していく姿が見られてうれしい。まだ、できないことばかりですが、それはハンデではなく個性と思えるようになりました」としみじみ語る。

 横浜市で活動する「ダウン症児親子の会『ピュアリー』」代表の中村光子さん(50)は「親たちには同じような仲間がいることを知ってほしい」と訴える。

 中村さんは長男(14)が生後まもなくダウン症と診断され、「子どもとともに死んだ方がよいのではないか」と思い詰めた経験がある。子育てにも前向きになれなかったが、2年ほどたったある日、病院で偶然会った友人の子どももダウン症であることを知った。自分たちが集まる場を作ろうと2003年、同会を設立。すると口コミで入会希望者が相次いだ。現在は約60組の家族が参加し、悩みを話し合ったり勉強会を開いたりしている。

 中村さんは「みんなで助け合える環境が整っていれば、育児に前向きになれます。こうした取り組みが各地にもっと広がればよいと思います」と話す。

 東京女子医大病院小児科・遺伝子医療センター准教授の山本俊至としゆきさんは「ダウン症といっても、心臓病など重い病気をいくつも抱える子もいれば、そうでない子もいる。大きな病気がなければ、健康な子と同じように育児を行ってほしい」と説明する。

 ただ、ダウン症の子どもは、なかなか歩けるようにならなかったり食べ物を上手にかめなかったりする。山本さんは「できないことを一生懸命訓練させても、子どもがストレスをためてしまうだけ。気持ちをゆったり構えて育てていくことが大切です」と助言する。(利根川昌紀)

 ダウン症 
 最初に症例を論文で発表した英国のダウン博士の名前から命名された。23対の染色体のうち、21番目が1本多いことが原因で起こる。全身の筋力が弱く、知的発達の遅れがみられることが多い。心臓病や目の病気、甲状腺機能の低下などの合併症を伴う場合がある。約1000人に1人の割合で生まれているとされる。
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