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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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本気なの? メタボ医師の減量指導

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 今日は、「本気なの?」というお話。

 エスカレーターでは東京は左側に立って、右側を空けています。大阪では右側に立って左側を空けています。そして、空いているスペースは歩いて上がる人もいれば、駆け上がる人もいます。基本的に空いているスペースに立っていると、微妙に、またはあからさまに嫌な顔をされますね。

 事故多発…エスカレーター歩行、なぜ容認

 でも、エスカレーターは歩いて上がることを想定して造られてはいないそうです。そして、エスカレーターの幅が2人までの幅となっているのは、手すりを持って使用することが前提だからだそうです。実際に、エスカレーターの乗り口や降り口に貼ってある注意書きをみると、子供と一緒の時は、並んで乗るようなステッカーがほとんどです。でも、そんなステッカーの文言を守って子供と並んで乗っていたら、いつも嫌な顔をされますね。

 そして、エスカレーターでは、その上を歩行する、または走って使う人が原因による事故が多発していると言われています。ある意味ルール違反なのに、なんでしっかりと「禁止だ」と言わないのでしょうか。それは、忙しい中、「少しでも早く移動したい」という心理の表れだと思っています。僕も誰もいないエスカレーターではなんとなく歩いています。最近の駅などの放送では、「気をつけて乗りましょう」といった程度の注意アナウンスは流れていますが、しっかりと「エスカレーター上の歩行は禁止です」という内容を流している施設はごくまれです。

 毅然として禁止すべきだ!

 基本的にエスカレーターは体の不自由な人、階段がつらい人のためのものと思っています。ですから、急ぐ人は階段を使用すればいいのです。そして、お年寄りや弱者が、エスカレーターの事故で不幸な目に遭っているのであれば、エスカレーターの歩行は毅然きぜんとして禁止すべきです。放送を流して、歩行禁止を徹底的に周知し、そしてエスカレーターの上にときどき駅員や職員を乗せて、両手で両側の手すりを持っていれば、誰も移動することができなくなります。そんなちょっとした努力を数か月も行えば、エスカレーター上は歩行禁止なのだという当然のことが周知徹底されます。でも、やる気はなさそうですね。つまり本気度の問題なのです。本当にやる気があるのか。それともなんとなくポーズでやっているのかの違いです。ポーズで行われると、実は混乱します。本気ではないメッセージに真摯しんしに答える人と、「ポーズだから無視していい」と考える人が混在するので当然の結果です。

 呼吸器病学会専門医はタバコ禁止

 さて、医療ではどうでしょうか。ひと昔前は、呼吸器疾患の患者さんに禁煙を勧める医師が、実はたばこ臭いことは、時々経験しました。しかし、呼吸器病学会などの専門医は非喫煙者であることが必須となりました。つまり禁煙に真剣に、ポーズではなく取り組んでいるということです。そういう姿勢をみると、やはり喫煙は体に相当悪いのだろうと、医師としても再確認をします。そして素晴らしい姿勢だと学会を応援したくなります。

 メタボ専門医の場合は?

 一方で、メタボリックシンドロームを推進している関連学会などで、メタボリックシンドロームの最初のステップである男性の腹囲が85センチ未満、女性の腹囲が90センチ未満を専門医の条件にしている学会は僕の知る限りはありません。実際にそんな数値で線引きをしては、体質的に太り気味の人は専門医になれなくなります。実は健康なのに、基準を満たしてしまう人もいるでしょう。人はいろいろであっていいはずです。でも患者にはそんな個人差を無視して、「メタボリックシンドロームの診断基準を満たすように、できるだけ減量しろ」と多くの医師は指導するのです。そうであれば、せめて、男性で腹囲が85センチ以上、女性では90センチ以上の人がメタボリックシンドローム関連の学会の専門医になるときは、「わたしは、減量の努力をしています」といった誓約書を提出するということもできるはずです。人に指導していながら、自分は実はやっていないということは、何だか矛盾するのではと思うのです。

 どこまで本気かが問われる

 どこまでメタボリックシンドロームの診断基準に意味があるのか、または医者が本気でその数値を目指そうとしているのかは、それを勧める医師の体形が如実に物語ります。ひと昔前の喫煙者が患者に禁煙を勧める滑稽な光景が、実はメタボリックシンドロームでも希に起こっていますね。メタボリックシンドロームの医師が、メタボリックシンドロームの患者に向かって減量の重要性を説いています。でも、聞く方が、医師の本気さを感じなければ、その説得もあまり効果的ではないですね。僕には男性の腹囲85センチ、女性の腹囲90センチが、禁煙のように健康のために本当に満たすべき絶対基準かどうか疑問なのです。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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