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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第6話 LGBTという言葉

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 いつもご愛読ありがとうございます。7月から開始の当コラム、なんとか1か月を過ぎましたが、いかがでしょうか。基礎知識から時事ニュース解説、サブカル的話題まで、当事者ならではの目線と経験でお伝えできればと思っています。コメントへのご投稿もいつもありがとうございます。今後も感想やご質問、リクエストなどをどうぞお寄せください。記事作りの参考にさせていただきます!

病理名として発明されたホモセクシュアル

 さて前回、性的マイノリティーを考える3つの視点として、身体的性、性自認、性的指向をご紹介しました。性的指向では、マジョリティーのヘテロセクシュアル(異性愛)に対して、ホモセクシュアル(同性愛)がマイノリティーとされます。

 このホモセクシュアルという言葉は現代性科学の先駆けであるドイツ人医師マグヌス・ヒルシュフェルト(1868〜1935)が、ヘテロセクシュアルとともに創始した言葉と言われています。ヒルシュフェルト自身は、同性愛行為を犯罪とした当時のドイツ帝国刑法に反対するなど、同性愛者の権利擁護に開明的な態度をとりました。しかし、それは同性愛者を病理として捉えることの裏返しとしてとられた態度でもありました。「彼らは犯罪者などではなく、一種の障害なのであり、われわれは彼らをそう遇さなければならない」というわけです。ホモセクシュアルという言葉には、どこか診断名めいた暗さがまとわりついて、欧米でも当事者にはあまり好まれなかったのも、そのへんに起因するのかもしれません。

 欧米の当事者により好んで使われたのは、男性の同性愛者をさすゲイ(gay)、女性の同性愛者をさすレズビアン(lesbian)で、1970年代以後の解放運動のなかでそれらは定着してゆきました。ゲイは元来、「陽気な」の意味で、男性同性愛者が自称したスラングが定着したものです。レズビアンは、女性同士の恋愛を歌った古代ギリシャの女性詩人サッポーが住んだレスボス島に由来するといいます。また、ゲイは同性愛者全体を指すこともあり、ゲイウーマンという言い方もあります。ただ、ホモセクシュアルであれレズビアンであれ、言葉の先だけを切って呼びすてられるのは、当事者にとって侮蔑的な感じがして、聞いて気持ちのよいものではありません。

 日本でも、同性愛者を指す言葉はさまざまあります。いまでは差別語とされるもののほか、定着したゲイやレズビアンにも、ゲイにはかつて接待にあたる美少年タイプの人を指して「ゲイボーイ」という用法があったり、レズビアンにも男性向けポルノのジャンル名としてイメージされることもあり、性にまつわる言葉はとかくハレーションを帯びる部分はあるものです。とはいえ90年代以後は、ゲイやレズビアンが日本の当事者にも広く受け入れられ、私自身もそう自称します。

LGBTは「性的少数者」の原語ではない

 近年よく見かけるのはLGBT(エルジービーティー)という言葉でしょうか。まだ新聞各紙では普通名詞としては使えず、記事の片隅に用語解説が必須のようです。いわく、「LGBT:レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとったもの。性的少数者の総称としても使われる」などなど。それでも最近は、「性的少数者(LGBT)」などの新聞表記も目にするようになり、性的少数者の英語名がLGBTと短絡的に理解したり、ひどい場合はLGBTは同性愛者のことだと誤解している人もいるようです。

 LGBTという言葉について当事者たちのなかには、L、G、B、Tの4カテゴリー以外にもさまざまな性的マイノリティーが存在するのに、この表記はそれらを切り捨てているとか、性的指向にかかわるLGBと性自認にかかわるTとは位相が違うとか、GとLでも男女ジェンダーを反映してそれぞれが置かれた状況や抱える問題は全然別なのに差異を無化しているとか、さまざまな声があります。

 それで、たとえばLGBTIAQ(Iはインターセックス、Aはアセクシュアル、Qはクエスチョニング。さらにXジェンダーを加えたりする)などと並べたり、でも並べても並べてもキリがないのでLGBTsとしたり、たがいの差異を意識するためL・G・B・Tとしたり、涙ぐましい努力(こだわり)を見かけます。

 一方、性的少数者とか性的マイノリティーという言葉だと、性的という言葉は「余計な連想」をさせるので避けたい、マイノリティーは政治運動っぽい(?)、LGBTのほうがフラット(価値中立的)に口にできる、という人たちもいます。企業研修などに取り組む活動においては、欧米標準でもあるLGBTがよく見られる印象がありますが、なんだかマーケティングの匂いがする、と皮肉る人も(苦笑)。

 私自身は古いタイプなのか、まず自分たちは性的存在であり、ちょっと厳しい言い方ですが社会の「権力関係」に意識的でありたい思いから、性的マイノリティーの言葉を使用することにしています。

 そのときの気分や、記者のかたは文字数に応じて、もしかしたらラフに使い分けているかもしれませんが、当事者はけっこう気にしながら言葉を選んでいるものです。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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4件 のコメント

トランスパートナーさんへ

カイカタ

丁寧なご説明ありがとうございます。確かに誤解があったようですね。この問題は当事者でないと理解できないという意味では、LGBと同じで、理屈でこうだ...

丁寧なご説明ありがとうございます。

確かに誤解があったようですね。この問題は当事者でないと理解できないという意味では、LGBと同じで、理屈でこうだといわれても、ピンと来ないからこそ、軋轢が生まれるものかと思います。

人間の想像力の限界なのでしょうか。今後とも学ばせていただきます。

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しかし難儀ですなぁ

まつひろ

自前で性的マイノリティの連帯を表現する言葉が産み出されれば良かったのですが…。などと嘆いていても仕方ありませんが。いやそれにしても難儀です。

自前で性的マイノリティの連帯を表現する言葉が産み出されれば良かったのですが…。
などと嘆いていても仕方ありませんが。
いやそれにしても難儀です。

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カイカタさんへ

トランスパートナー

トランスジェンダーについて、いろいろ誤解されているようです。コメントでは、誕生時の性別が男だったが、性自認は女のトランスジェンダーMtFについて...

トランスジェンダーについて、いろいろ誤解されているようです。

コメントでは、誕生時の性別が男だったが、性自認は女のトランスジェンダーMtFについて書いておられます。MtFのトランスジェンダーの人は、「女でありたい」と思っているというよりは、正確には「自分は女だ、だから社会的にも女として生きたい」と思っているのです。言い方の違いといえば、それまでですが、細かい違いがわかりますか?

また、MtFの人は、「弱弱しい受身」のタイプとは限りません。また、そうだから、女になりたいのではありません。身体上の性別への違和感を強く持続して感じているのです。いま世界的に一番有名なトランス女性は、おそらくケイトリン・ジェナーでしょうが、彼女は男だったとき、オリンピックで金メダルをとるバリバリのスポーツマンでした。こういうトランス女性、多いらしいです。

シスジェンダーの女性にも、性自認は女でも、外見や性格が男っぽい人、女らしいことが嫌いな社会が作り出した「女はこうあるべし」というステレオタイプに当てはまらない人がいるように、トランス女性もいろいろです(ただ、性移行したさいに、まわりから女として受け入れられたいがために、伝統的女っぽさを強調する場合もあるでしょうが)。

私はシス女性ですが、数名のMtFトランス女性を知っています。皆さん、女性として生活しています。「本物の女性に匹敵する」外見で、何もしらない初めて会う人に、変な目で見られたり トランスであることが分かってしまうことはありません

趣味として女装したい人と、性自認が女の人とは別ケースですし、必ずしも直接結びつくものではありません。

私は永易さんには、こういうよくある世間の一般的思い込みについてもとりあげていただきたいです。

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