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神戸5人死亡…生体肝移植の問題点(1)ドナー無理する必要ない

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 生体肝移植9例で5人の患者が死亡した神戸国際フロンティアメディカルセンターの問題は、日本移植学会など学術団体が第三者による検証を求める中、センター側は移植継続の姿勢を変えず、打開策が見いだせていない。この問題を通して、生体肝移植の抱える危うさや移植医療の課題が改めて見えてきた。

(聞き手・医療部 高梨ゆき子)

こうの・たろう 1996年初当選、7期目。父で元衆院議長の河野洋平氏に肝臓の一部を提供する手術を信州大病院で受けた。52歳。

衆院議員 河野太郎氏

 2002年、僕は肝臓を患っていたオヤジの生体肝移植でドナー(臓器提供者)になった。その7年前にお袋をがんで亡くした時は何もできなかったから、オヤジにはできることをしたいと思い、僕から提供を申し出た。オヤジは初め拒否したが、その頃、妻の妊娠がわかり、初孫を見たい思いに背中を押され、受け入れる気になったようだ。

 ドナーになるまで、妻とずいぶん話し合った。ただ、当時は、手術だからリスクはゼロでないまでもドナーの死亡例はないし、後遺症の情報もなかったからこそ決断できた面があった。

 しかし、その後、03年に京都大病院でドナーが亡くなった。ドナーの健康状態に関する追跡調査も行われ、1割以上に重い後遺症があったとわかった。もし事前にそういう情報があったら、僕はドナーになっていなかったかもしれない。そういう意味で、今、ドナーになるかどうか決断する人は、もっと厳しい選択を迫られることになるはずだ。

 生体肝移植は、健康なドナーの腹にメスを入れて肝臓を切り取る。だからこそ、成功の可能性が高いものでない限りやるべきではない。たとえドナー本人が、成功率が低くてもやりたいと言ったとしてもそうだ。

 そういうことが横行したら、ドナーになる可能性のある人への社会的プレッシャーが高まる。生体移植が美談になれば、いたずらにドナーを危険にさらすことになりかねない。周囲の圧力で意思に反してやらざるをえなくなることだけは避けなければならない。

 僕は、「家族からドナーになってくれと頼まれたがどうしたらいいか」と悩む人に相談されることがある。そういう人には「断っても問題はない」と話す。患者は、リスクと引き換えに病気がよくなる可能性があるから手術を受けるわけだが、健康なドナーの体に手術はリスクでしかない。慎重になって当然だし、無理する必要はない。

 生体肝移植を行うには、患者やドナーの状態、病院の体制などについて、専門家の間で認められる一定の条件を満たすことが重要だ。それは、ドナーの安全性に万全を期すためにも必要なことだ。

 神戸国際フロンティアメディカルセンターは、そうしたことについて客観的な検証を受けるよう学会から求められているのに、聞き入れていないようだ。それができない病院では、生体肝移植を行うべきではない。

神戸国際フロンティアメディカルセンターの問題

 生体肝移植の権威である田中紘一・京大名誉教授をトップに昨年11月開院し、今年4月までに8例中4人の患者が死亡。日本肝移植研究会が調査し、死亡例には診療に問題があり、病院の体制も不十分として移植中止を求める報告書をまとめたが、詳細は公表されていない。センター側は、死亡例が続いたのは「厳しい状態の患者だったため」と説明してきたが、これには「死亡例の多くは重症ではない」(同研究会)との指摘も。同センターは6月に独自の判断で移植を再開し、5人目が死亡。その患者は生前、記者会見し、他の病院では移植を断られたと語り「1%でも成功の可能性があれば賭けたい」と話していた。

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