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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

手を尽くしても逮捕、甘く見たのに罰金…産科医療巡る処罰に「差」

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リニューアルしたエプソン アクアパーク品川になぜかカピバラ登場です

 毎日暑くて熱中症対策が大変ですね。昼間の暑い時間はなるべく家の中で過ごしていますが、夕方の5時でもまだまだ暑いので外で遊ぶというのは難しい季節です。バス停で3分待っているだけでも子供は汗だくになりますね。娘は牛乳と麦茶ばかり飲んでいます。

先日の報道です。

助産師に罰金50万円

 相模原市南区の「のぞみ助産院」で2013年、出産後に大量出血した女性が救急搬送の遅れから死亡した問題で、神奈川県警が業務上過失致死容疑で書類送検した女性助産師(69)について、横浜区検は29日、同罪で横浜簡裁に略式起訴した。簡裁は同日、罰金50万円の略式命令を出した。助産院と助産師は医療法違反容疑でも書類送検されたが、同容疑については不起訴となった。起訴状によると、助産師は13年4月27日夜、女性(当時33歳)が出産後に大量出血したのを確認したが、すぐに医療機関で治療を受けさせるなどの対応を怠り、翌28日に搬送先の病院で死亡させたとされる。

(2015年7月30日 読売新聞)

 

 2013年に神奈川県の助産院で出産した女性が、適切な時期に高次医療施設へ救急搬送されず死亡した事件で、業務上過失致死の疑いで書類送検された件に関しては簡易裁判所で罰金50万円の略式命令となり、市から開設届の許可を受けず、嘱託医もいなかったことで医療法違反容疑で書類送検されていた件に関しては不起訴になったという報道です。

大野病院事件と比べ、軽い処分という印象

 出産で母親が死亡して業務上過失致死で刑事事件となった例と言うと、福島県立大野病院事件(前置胎盤の妊婦の命を救うことができず主治医が逮捕・拘留された事件。後に無罪となった)を思い浮かべる人が多いと思いますが、それに比べるとずいぶん軽い処分だと感じた人が多かったようです。

 私も個人的な心情としては「手を尽くして助けられなかった医療従事者が逮捕され、出産を甘く見ていた(そのような発言の報道もあったため)医療従事者が簡易裁判所で罰金刑とは、ずいぶんと差があるな」と感じます。そもそも悪意や殺意、重大な倫理違反がない場合に、どこまで医療に刑事罰が入ってくるのが妥当なのか判断できません。それよりも、許可を得ていなかった、嘱託医がいなかったということが不起訴になったことの方が驚きでした。

 諸外国では、先進国も発展途上国もバースセンターと言って出産が集約化されているところが多い中、日本では浅く広く産院が配置されているのが特徴です。その背景には様々な要因があるのですが、小規模な施設では対処しきれない症例は高次医療施設に搬送しなくてはなりません。

 「たらい回し」とメディアに表現された、搬送の受け入れ先がなかなか見つからない事例が立て続いて報道され、産科医療の人手不足が露呈するきっかけとなりました。確かに受け入れ先が十分でないことは現在の産科医療が抱える問題です。

搬送遅れ、命取りに

 しかし、それよりももっと困るのは、今回のケースのようにその施設では対応しきれない状態になっているのに、それに気づかれずにいたり、まだ搬送しなくてもいい状態だろうと判断を誤られたりすることです。周産期医療の現場にいる方は、そのようなことは決してまれではないことをご存知だと思いますが、一般の方の中には「何かあったらどうせ大きな病院に搬送されるんでしょ」と思っている方も多く、搬送のタイミングを見極めるというのはかなりの臨床能力を必要とするということを知っていただきたいです。

 出産はもともと危険を伴うものですが、しかるべき施設へ早めに搬送すれば助かったかもしれない母親の命が助けられなかったということはとても悲しいことです。この件を無駄にせず、より安全な医療が提供されるよう、産科医療従事者と、妊婦とその家族の両方がより確かな意識を持つことを願います。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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3件 のコメント

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大きくなりましたね

小町ファン

このブログのなによりの魅力ってお子さんの成長の記録です。大きくなりましたね。そのうちにね、お子さんは自分の主張がどんどんでてきますから、それもま...

このブログのなによりの魅力ってお子さんの成長の記録です。
大きくなりましたね。そのうちにね、お子さんは自分の主張がどんどんでてきますから、それもまた楽しみです。
肩車などしてカメラをもたせて自由に撮影させるとこういうものを見ていたのかと個性がわかる時もありますから、たまにはパパとお出かけしてみるといいです。時間があればの話で無理に家族をやる必要はないですけど。

うちの場合は第二子の妊娠中、いま時期の暑さで外出先で妻が気絶を起こしています。運良くほかの人がいたので私に連絡が来て、会社を早退させてもらって迎えにいくことができました。そして母子共に無事でした。
先生もお気をつけて毎日をお過ごしください。

お子さんが人見知りをしないってすごい事だと思っています。
そしてどんどん両親にさからってきますから楽しいですよ。
たまには負けてあげないとスネます。
かわいいものです。その子供も今では修士課程に進んでいます。

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設備の整った病院で産みたいけど

あつこ

友人がNICUのある総合病院で助産師をしています。彼女は何かあっても、自分の働いている病院なら母子ともに救ってくれるだろうと自分の働いている病院...

友人がNICUのある総合病院で助産師をしています。彼女は何かあっても、自分の働いている病院なら母子ともに救ってくれるだろうと自分の働いている病院で出産しました。

私も一人目は彼女の働く病院で出産。

しかし二人目は無理でした。産科への子どもの立ち入りは不可の病院でしたから出産時預け先のない私は、その辺りの甘い個人病院で出産しました。

三人目を生む友人が最近、ボチボチいます。もう充分高齢出産のため、総合病院で産みたいけど上の子達を考えると融通の利く近隣産院、助産院で出産しています。

ハイリスクの人以外は、リスクの高い人に迷惑だからという考えから個人病院での出産をするママ友もいました。

助産院の事件は本当に考えさせられます。我々母親は、自分の体だけではなく上の子の事、お腹の子の事など総合的に考えて産院を選択しています。ですから、こだわりなんかなくても個人病院や助産院しか選べない事もあります。素人に信頼できる医療者を見極めるのは容易でありませんから、恐ろしです。

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助産院は本当に必要なのか

すず

 元助産師です。  今回の助産院の事件により命を奪われた女性のご遺族の方々の心情を思うと、胸がつぶれそうな思いがします。  そして、何よりも、亡...

 元助産師です。
 
 今回の助産院の事件により命を奪われた女性のご遺族の方々の心情を思うと、胸がつぶれそうな思いがします。 
 そして、何よりも、亡くなったご本人が無念だっただろうと思います。

 今回の罰金刑は、一人の命が奪われたにもかかわらず、あまりにも軽い刑だと私も感じています。
 また、嘱託医がいない、市の許可を得ていないことが不起訴だったことは、助産院設置の基準を満たしていない助産院を黙認することにならないのでしょうか。
 そして、自分の経験だけを過信し、分娩を甘く見るような助産院が増えることを助長しないのでしょうか。
 なぜ、助産師に対してこれほどまでに刑が甘いのか、理解に苦しみます。

 私は助産院での実習を経験したことがありますが、はっきり言って緊急時の対応には特に不安を感じました。
 どうか緊急事態だけは起こりませんようにと半分祈りながら、異常の兆候はないかと必死で分娩進行をみていた記憶があります。
 妊娠・出産はそれまでいくら正常に経過していたとしても、一寸先は闇です。
 そして、急変時には一刻を争います。
 助産院ではいくら搬送のタイミングをうまく見極められたとしても、タイムロスがかなり生じますし、助産師だけで対応できることには限界があります。
 出産は病院だから絶対安心というものでもありませんが、どんな事態が生じてもタイムリーに対応できる環境で出産できるようにすることが大切だと思っています。
 現在の日本の妊産婦死亡率をみれば、今の日本人は身近に出産で死亡した妊産婦がいない人の方がほとんどでしょう。
 それゆえ、出産は安全だと思われがちで、自然に産むとかそちらの方に重きを置く方も多いと思いますが、母子ともに安全であることを第一に産院選びができるように、情報提供していかなければと考えています。

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