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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

匿名第三者の卵子提供、「15歳で出自を知る権利」は画期的

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京都の妙心寺に娘と行きました

 相変わらず猛烈に暑い日々が続いていますね。私は幸いにもつわりが終わっているのでダブルパンチにはなっていませんが、暑い中、抱っこひもで赤ちゃんと密着されている方や、つわりなどでもともと体調があまりよくない方にはとてもつらい季節ですよね。娘はちょっと走り回っただけで汗だくになっており、牛乳と麦茶の消費が激しいです。首の後ろに汗疹あせもができてせっせと薬を塗っていますが、乳児の頃にくらべると夢のように軽いです。夏のスキンケアも重要ですね。

 さて、先日のニュースです。

 匿名第三者の卵子で体外受精、NPOが仲介…国内初

 病気などで自分の卵子で妊娠できない女性を対象に、第三者の卵子提供を仲介するNPO法人「卵子提供登録支援団体(OD—NET)」(神戸市)は27日、女性2人に卵子を提供したと発表した。

 それぞれの夫の精子と体外受精を行った。今後、受精卵を子宮に戻し、順調にいけば来年にも子どもが生まれる。国内では、一部の医療機関で姉妹や知人による卵子提供が行われているが、仲介による匿名の第三者からの卵子提供は初めて。国内で今後、こうした新たな形の卵子提供が広がる可能性もある。

 卵子提供を受けたのは、いずれも早い時期に月経がこなくなる「早発閉経」で成熟した卵子のない30歳代の女性。2人の提供者も30歳代の女性だった。

 同団体は、病気で卵巣機能が低下した40歳未満の女性を対象に、卵子提供を仲介しようと不妊治療クリニック団体「JISART(日本生殖補助医療標準化機関)」などが中心になって2013年1月に設立された。卵子提供を望む夫婦が、自ら提供者を見つけることは現実的に難しく、子どもがいる35歳未満の女性から無償での卵子提供を募った。これまでに230人以上の応募があった。年齢や居住地などから卵子の希望者との組み合わせを決め、10組で卵子提供の準備を進めていた。採卵などは、JISARTの加盟施設が行った。

 卵子の提供者と夫婦には互いの情報は知らされないが、生まれた子どもが15歳になった時点で、子どもが希望すれば提供者の氏名や連絡先が開示される。

 東京都内で記者会見したOD—NETの岸本佐智子理事長は「安心して卵子提供が行えるためにも、国は一刻も早くルール作りを進めてほしい」と話した。

(2015年7月27日 読売新聞)


 国内で、匿名提供者により卵子提供が行われたというニュースです。こちらのブログでも何度か卵子提供のことは話題にしていますが(「卵子提供 止める手段ない」、「『できる』けれど『やっていい』のか…生殖医療の選択肢」)、今までは第三者から卵子提供を受けたければ海外にいくしか現実的な選択肢がありませんでした。卵子提供については法整備がなく「違法」というわけではありませんでしたが、提供者の身体的な負担が大きいため実質上行われていませんでした。それに対して精子提供は行われてきたため、配偶子(注:精子や卵子のこと)間の「男女格差」が埋まったという見方もできます。

提供者の身体負担が重い採卵

 しかし、精子提供が以前から行われてきたのは、精子の採取が簡便であるからで、卵子の場合はそうはいきません。排卵誘発や採卵は身体的負担ですし、時間を割いて何度も医療機関を受診する必要があります。不妊治療をされている方はそういった負担に納得した上でされていると思いますが、ボランティアの提供者に健康被害があった場合は事前に説明と承諾があったとしても問題になるのではないかと思います。そういった観点からは、「未受精卵を凍結しておいたが自然妊娠で欲しいだけ子供を授かったので不要になった」というような卵子を今後有効に提供できないか検討する価値はあると思います。

 今回提供を受けたのは早発閉経の30代の女性たちだったということで、仲介しているNPO法人は「40歳未満で病気のため卵巣機能が低下した女性」をレシピエント(提供を受ける側)の対象としているということですが、実際に卵子提供を求める人の多くは40代を中心とした高齢不妊のカップルだと思われますので、今後対象を拡大してくのか、対象を拡大した別の団体ができていくのか、などについて注目したいと思います。自分の卵子で妊娠をトライし続け、40代半ばになって養子縁組を考えても年齢的に難しいというケースが多いそうで(それでも子供を持ちたいなら野田聖子さんのように超高齢でも卵子提供を受けて自分で産むしかないのが現状です)、その世代のカップルが子供を持つ選択肢が増えるなら影響は少なくないと思います(個人的には卵子提供よりも養子縁組の幅が広がるといいなと思っています)。

子供の視点もクローズアップ

 生まれてくる子供の視点で見ると、子供が15歳になって希望すれば出自を知る権利を持てるということは画期的だと思います。近年、配偶子提供によって生まれた人の苦悩についても報道されるようになり、子を望む親の願いをかなえるのが正義だというのでなく、受動的に生まれてくる子供の視点がクローズアップされるようになってきたのは良いことだと思います。

 15歳で出自を知る権利がよい方向に影響するのか、それはまだ分からないと思いますが、生殖医療の倫理を議論する上でとても重要だと思います。

 配偶子提供は難しい問題をはらんでいますが、今後もおそらく需要は広がっていくでしょう。そう考えると売買のような形ではなく、国内でボランティアとして行われるのが比較的健全なのかも知れません。とにかく「できる、だからやる」というような形でなく、議論されながら慎重にすすんでいくことを願います。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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