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第21回 口腔保健シンポジウム

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[第21回 口腔保健シンポジウム](2)特別講演 歯周病 出血が注意信号

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大阪大学大学院歯学研究科長・歯学部長 天野敦雄さん

あまの・あつお 1984年大阪大学歯学部卒業。同大歯学部予防歯科学講座助手、同大学院歯学研究科先端口腔生物学分野教授、同研究科予防歯科学分野教授。


 口は、食べ物をよくかんで栄養をとる、健康の入り口です。その邪魔をするのが歯周病で、ギネスブックにも載った人類史上、最大の感染症です。古代メソポタミア、黄河文明の頃から、人類はずっとこの歯周病に悩み続けてきました。この病気はとても厄介で、日本だけでなく、世界中で蔓延まんえんしています。

 歯周病の原因は歯垢しこう、歯の汚れです。歯垢はやがて固くなって、歯石になります。こうなると、もう歯ブラシでは取れません。歯垢を取るのも意外に難しい。歯をちゃんと磨くのは、難しいんです。

 歯垢は歯の上にたまっているバクテリア、細菌なんです。この細菌には、悪玉菌、善玉菌、日和見菌があり、歯周病はこの悪玉菌が起こします。

 日本で歯周病菌がいつ感染するか。18歳以降なんです。歯周病菌が口の中にいる高校生は5%もいません。ところが、18歳以降、どんどんと感染してしまって、歯周病菌が口の中にいる日本人は60%にまで達します。どこから感染するか。大体3~4割は、親など家族からだと言われています。

 アメリカではもっと少ない。これは食習慣が関係していると思われます。誰かの唾液がついた食べ物を食べてしまうと、感染します。だから、大皿料理には必ず取り箸を置きましょう。西洋料理はフォークとナイフだから、アメリカは家族間感染が少ないんです。

 歯周病菌が一度すみついたら、一生のお付き合いになります。ただ、歯周病菌が感染しても歯周病にならない人もいます。歯周病は歯垢と歯茎のバランスが壊れた時に発症します。歯茎の抵抗力と、歯垢の病原性のバランスがとれている時は健康です。しかし、歯垢の病原性が高くなると、バランスが崩れて歯周病が起こります。

 歯垢や歯石がたまると、歯茎がちょっと腫れて、歯周ポケットのすき間ができます。すき間の内側は、歯茎の皮がめくれて、毛細血管が露出している。ここには血がたまっています。

 皆さんが歯を磨いて、血が出た時、よく強く磨き過ぎたので血が出たと思うんですが、違います。ナイロンの歯ブラシで力を入れて磨いても、簡単には傷がつきません。ところが、この内側に血がたまっているから、歯ブラシで押すと、ヒュッと血が出るんです。

 この出血がとても大きな意味がある。歯周病菌は、赤血球ヘモグロビンにある鉄を食べて病原性を発揮しています。出血が始まると、歯周病菌は大喜びで、血液から鉄はもちろん、上質のたんぱく質、ミネラルなど、いろいろな栄養をとります。この時に歯周病菌は爆発的に増殖します。そして、歯茎は炎症を起こして歯周病が始まっていきます。この歯周病菌は歯茎の免疫力を抑制します。

 歯周病菌があるのに、だんだん歯を磨くのが面倒くさくなり、たばこは吸うわ、大酒は飲むわ、体に悪いことをしている人もいるでしょう。その結果、歯茎から血が出るようになる。歯茎から出血して、放っておいたらどんどん菌は増え、悪くなる一方です。

 歯周病のもう一つ怖いところは、寿命との関係です。歯茎の傷から歯周病菌が血管に入って、全身を駆けめぐるんです。歯周病になると、アルツハイマー病、脳血管や心血管の病気、糖尿病、リウマチ、がん、肥満などになりやすいことが、わかってきました。口も臭くなります。

 皆さん、出血があったら、ぜひ歯石除去を受けに、歯医者さんに行きましょう。歯医者さんに行くと、衛生士さんが歯垢や歯石を取ってくれます。半年に1回は定期的に行って、お口の掃除をすると、歯茎が健康になっていきます。

 最後に、ちょっと面白い話をします。お酒の飲み過ぎと歯周病発症には関係があります。しかし、お酒を飲んでも赤くならない人は、お酒が歯周病を進めることはありません。ところが、日本人の40%のお酒を飲んで赤くなる人は、飲むと、何と4・28倍、歯周病になりやすい、というデータが出ています。

 たばこを吸う人は大体5倍、歯周病になりやすい。たばこの煙を横で吸っている人も約3倍、歯周病になりやすいので、注意してください。

【参考になるウェブサイト】

◇日本歯科医師会 テーマパーク8020 http://www.jda.or.jp/park/
◇サンスター Mouth & Body PLAZA  http://www.mouth-body.com/


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