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世界に広がる母子手帳…成長の記録、健康管理に

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 母子健康手帳(通称・母子手帳)は、戦後の混乱期に生まれた。今、世界各国に広がりを見せる一方、日本では、電子化を検討する動きもある。

 先月29日、都内で開かれた母子手帳の勉強会に、中国の母子保健の専門家32人が参加した。海外での手帳の普及に取り組む「親子健康手帳普及協会」の主催で、厚生労働省担当者や日本の専門家と意見交換を行った。

 王巧梅団長は、中国全土で統一の母子手帳を普及させる計画を発表した。妊娠を希望した時から配布を検討しているという。

 母子手帳は、妊娠中から誕生後までの母子の健診やワクチン接種などの記録だ。市町村に妊娠を届けると渡され、妊娠や育児に関する情報も載っている。母親が成長の様子や気持ちを記録する欄もあり、家庭で保管する。

 原型は、戦時中の1942年に作られた「妊産婦手帳」。妊娠の証明書代わりにもなり、配給が手厚くなったという。48年に、出産後の乳幼児期の記録も含めた「母子手帳」になった。

 この母子手帳を海外に広めたのが、中村安秀大阪大教授だ。86年に小児科医としてインドネシアに赴任した。診察時に出生時の体重やワクチンの接種状況を尋ねても、記録がなくてわからず、母子手帳の重要性を痛感。母子手帳を紹介した。

 同国の医師らの要請を受け、国際協力機構(JICA)が技術協力事業を開始。母親や助産師らに使い方を教えた。2004年には母子手帳を推奨する大臣令が出て、全土に定着した。

 その後も発展途上国を中心に「参考にしたい」との声が相次ぎ、現在、母子手帳は世界30か国以上で活用されている。中村教授は、「日本は、母子手帳のアイデアを提供したが、中身は、それぞれの国の文化や保健医療の制度が反映されている。だからこそ、各国で支持され、根付いたと思う」と話す。

世界各国の母子手帳

 東日本大震災以降、国内では母子手帳の電子化への注目も高まっている。岩手県では、記録を電子化して自治体と医療機関が情報共有する仕組みがあったため、津波などで母子手帳を紛失した妊婦に再発行ができた。

 日本産婦人科医会は13年から電子母子健康手帳標準化委員会で、記載方法や運用の課題を整理している。委員長の原量宏かずひろ香川大特任教授は「紙と併用し、どこでもデータを確認できる電子版も実現させたい」と話す。

 時代とともに進化する母子手帳をひとかたならぬ思いで見守るのは、小児科医の巷野こうの悟郎さん(94)だ。48年、母子手帳の誕生時に、厚生省(当時)で記載内容の整理や普及に携わった。

 当時、赤ちゃんの1割弱が1歳までに、感染症などで命を落としていた。母子手帳を使った保健指導で、具体的な感染予防策も実施した。「一人でも多くの子どもの命を守りたいと必死でした」と振り返る。

 以前、女子大での講義で学生に自分の母子手帳を持参してもらった。「体重が増えてほっとした」「夜泣きに困った。頼むから今日は泣かないで」といった母親の記録を読み、涙を浮かべる学生の姿が印象的だった。

 巷野さんは、「時代は変わっても、母子の健康を守り、親子の絆を深める役割は変わらない。これからも大切に存続させてほしい」と願っている。(中島久美子)

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