茂木健一郎のILOVE脳
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海外旅ランの「落とし穴」
みなさ〜ん、走ってますか〜?
私は、相変わらず、雨にも負けず、風にも負けず、リバウンドにも負けず、走っております!
仕事柄、どうしても旅が多いのですが、その旅の間も走り続けるために編み出した、必殺、「旅ラン」。
今回は、イギリスは、ロンドンにやってまいりました!
パリで行われる学会を前に、以前留学していたケンブリッジ大学を訪問し、恩師であるホラス・バーロー教授と議論することを目的とした、イギリスの旅。
しっかりと、旅ランしましたぞよ!
舞台は、ロンドン中心部にある「ハイド・パーク」。
広大な緑地の中に、「サーペンタイン」と呼ばれる池があります。
広々とした自然に恵まれたハイド・パークは、まさに走るのに最適!
ロンドンに到着した翌日、私は、ジョギング・シューズに履き替えると、ホテルの正面を出て、一路、ハイド・パークに向かって走りだしたのであります。
さてさて、旅ランにかぎらず、走る時、特に朝のランニングにおいて欠かせない問題が、毎度おなじみの、「トイレ」であります。
トイレとランニングの関係については、おそらく、古代ギリシャから、すべてのランナーを悩ませてきた、と言っても良いでありましょう!
走っている時のトイレ! これは、実に重大な問題なのであります。
とりわけ、朝のランニングにおいては、一種の生理現象として、「大」の方に行く必要が出てくることもある、ということは太陽が東から昇って西に沈む、というくらい周知の事実なのであります。
走っているうちに、「大」の方の必要性が出てきた場合、もはや走っている場合じゃない、そんなことよりも、とにかくトイレに行け、そうだ、今こそ走っていけ、ということになりかねません。
すると、「走る」ということの意味が、身体を動かす喜びから、トイレに直行という、全く違った趣旨になってしまう、ということもしばしばあるわけです。
また、たとえ、走って行ったとしても、肝心のトイレが見つからない、影も形もない、ということになると、「間に合わない」という、人生最大の悲劇が待っていることにもなりかねないわけです。
つまり、旅ランを朝やろう、という時には、この、トイレ問題をいかに解決するかということが、勝利の方程式なのであります!
日本は素晴らしい
その点、日本は実に素晴らしい国で、どこに行ってもたいていコンビニがあり、コンビニでトイレを借りることができます。
また、各所に点在する公園にも、トイレがあり、借りることができます。
ああ、なんとすばらしい国、日本!
旅ランをするには、これ以上の国はないと言ってよいでしょう。
ところが、日本を離れて外国に来た場合、そう簡単に、トイレ安心な旅ランをさせてはくれません。
たとえば、かつての大英帝国の栄華をしのばせる、ここ、ロンドン。
旅ランのトイレ事情は、決して甘くはない。
まずは、コンビニが、日本のようにあちらこちらにある、というわけではありません。
「トイレお借りしていいでしょうか?」
「はい、どうぞ!」
みたいな会話を、
待て、コンビニがなくても、まだ最高裁がある! じゃなかった、公園のトイレがある! とお思いかもしれません。
ところがですね、そこに、数多くのトラップが潜んでいるのであります!
まず第一に、イギリスの公園のトイレは、「開いている時間」というのがある。
そうです、どなたか、係員の方が来て、鍵を開けたり閉じたりする。
従って、使える時間が「朝何時から、夜何時まで」と決まっているのです。
走ってかけつけても、ああ、悲劇、鉄の扉がガシャンとしまっていて、その向こうのパラダイスに行けない、ということもある。
おもらしのピンチか!
さらに、他のトラップもあります。
今回、イヤな予感がして、ランニング・ポケットに1ポンドのコインをしのばせて、走りだした私。
ハイド・パークの景観自体は、本当に素晴らしいです。
![]() 写真1
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ロンドン五輪のトライアスロンでは、「水泳」の会場にもなったサーペンタイン池(写真1)。
池のほとりを
現地時刻、朝7時過ぎ。多くのランナーたちが、ハイド・パークを走り、遠い東京からかけつけた私も、ゲスト・ランナーの気分で、彼らとペースを測り合います。
まさに、走る日英友好!ところがですね、案の定、トイレに行きたくなってきたわけであります。
しかも、案の定、「大」の方であります!
走っていった、トイレで私を待っていたのは・・・
ガーン、有料になっている!
しかも、20ペンス!
私が持っているのは、1ポンドのコインだけ。ああ、まさかの、トイレに入れずおもらしのピンチか!
![]() 写真3
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![]() 写真4
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と思いきや、さすがは現代のロンドン。ちゃんと、両替機があったのであります(写真3)。
開いててよかった、両替機があってよかったと、いそいそと1ポンドを入れ、5枚出てきた20ペンスのコインの1枚を、ゲート(写真4)に投入すると・・・
おお、奇跡ではないか! みなさん、ゲートが開きましたよ!
そして、その向こうには、驚くほど清潔で快適な、トイレが待っていたのであります。
さすがにシャワー式トイレはありませんでしたが!
ホテルに帰ってきてから、ハイド・パークのホームページを見ると、2015年の2月から3月にかけて、ロンドン各地にあるハイド・パークなどの王立公園に、有料トイレが順次導入されたとのこと。
メンテナンスにかかる費用の一部を利用者が負担することで、さらに快適なトイレを提供することが目的だったようです。
とにかく、ほっとして、再びハイド・パークを走り始めた私。
![]() 写真5
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![]() 写真6
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ビクトリア女王の像も、「良かったね!」と言ってくださっているようです(写真5)。
走っていた私は、ふと足をとめ、手の中の20ペンスのコインを見つめました(写真6)。
君は、偉い!
君のおかげで、ぼくは、安心してハイド・パークを走ることができる!
サマセット・モームの名作は『月と6ぺンス』ですが、私のへなちょこ珍道中のテーマは、「旅ランと20ペンス」。
旅先で感じやすくなっている私の心に、20ペンス・コインのデザインが、しっかりと刻み込まれたのであります!