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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

医療・健康・介護のコラム

第2話 渋谷区の同性パートナーシップ証明とは?

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渋谷区で同性婚が認められたのか?

 今回の(私が言うところの)LGBTブーム、その火付け役となったのは、東京・渋谷区で同性カップルにパートナーシップ証明を発行することを盛り込んだ「男女平等・多様性推進(※1)」条例でしょう。メディアで大きく取り上げられたせいか、現在もネットなどでは渋谷区に行くと「同性婚ができる」と受け止めている人を見かけます。

 もちろん、この日本で渋谷区だけ同性婚が認められるわけもなく、婚姻とは別制度、証明に法的効果はないと、区みずから2月に条例案を発表した時から言い続けています。ただ、後述のように、医療や介護など「家族」が強調されやすい場面では効果を発揮するのでは、と期待されています。

 条例によれば、この証明を得るには、同性カップル2人のあいだで任意後見契約を行ったり、共同生活に関する契約書を公正証書で作る必要があります。任意後見契約とは、「任意後見契約に関する法律」にもとづく契約で、自分が認知症などで判断能力が低下したときの財産管理などをあらかじめ誰かに委任し、その代理権の内容も自分で定めておくもの。成年後見制度の一つであり、高齢化社会を見据え、介護保険とともに2000年に始まりました。法的な夫婦でも、互いの財産管理の代理には後見制度にのっとる必要があります。

 もう一つの共同生活に関する契約書は、家事や生活費の分担など合意事項を列記したもので、男女間でも結婚契約書などとして作成する例があります。その同性カップル版を、公証役場で作成してもらうというもの。

存在の認知から、人権の法的擁護へ

 こうした書面をきちんと作成している間柄を「婚姻に準ずる関係」と認め、区がいわば「認定証」を発行するのがこのパートナーシップ証明です。証明自体には、なんら法的効果はなく(区も提案時からそう言っています)、婚姻のような「同居・協力・相互扶助」(民法)や財産管理の委任など法的な代理権は、自前で証書を作成することで調達します(あとはこれに相続のための遺言があればなお安心)。そのうえで発行される証明自体はきわめて形式的なもので、どこかの自治体がアザラシに交付した住民票よりは値打ちがある、と言えば皮肉が過ぎるでしょうか? 当事者のなかにも、「区から認められるのがうれしい、ぜひ取得したい」と大歓迎の人たちもいれば、「法的効力がないなら必要を感じない」「証明取得にだけ焦っても意味がない」と冷淡な人もいます。

 ただ、こうした法的書面への知識や認知が乏しい日本で、「私たちパートナーなんです」というとき、公正証書をドサッと出されるより区の認定書のようなものがあれば、周囲の「わかりが早い」のは確か。家族と認知されづらい同性カップルがよく困難にぶつかるとされる不動産賃貸のほか、病院面会や手術の同意書、終末期など医療の場面で、あるいは介護の場面で効力が期待されます。

 つい性的マイノリティーについて渋谷区は先駆的と言われそうですが、行政の人権指針や条例で同性愛者など性的少数者について触れたものは90年代からあります。ただ、これまで「あえてその名を口に出さなかった(※2)」同性カップルを「家族」としてテーブルの上に乗せたのは、渋谷が最初でしょう。歴史認識をはじめ政府が「ある・ない」さえ言明できない日本の風土で、行政が初めてその存在を「ある」と言明した「同性パートナーシップ」。小さな一歩ですが、ここからなにかが始まることを私は期待しています。


※1 正式名称は「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」
※2 19世紀末、ソドミー法(同性愛などによる特定の性行為を犯罪とする法律)に問われた英国作家オスカー・ワイルドが、陳述のなかで同性愛を「あえてその名を口にしない愛、The love that dare not speak its name」と述べた有名な故事に由来。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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2件 のコメント

医療従事者への教育が必要

shunto

こんにちは。いつも楽しく拝見させていただいております。公正証書についてなのですが、公正証書の存在や法的意義、裁判になった際に一般的な家族関係と公...

こんにちは。
いつも楽しく拝見させていただいております。

公正証書についてなのですが、公正証書の存在や法的意義、裁判になった際に一般的な家族関係と公正証書の内容とどちらが優先されるか等について、きちんと理解出来ている医療従事者は皆無かと思われます。(私自身もまだよく分かっていません)

公正証書を持っていても、そのアイテムが相手に効果が無ければ宝の持ち腐れです。本当に必要になるのは緊急時なので、よっぽど医療従事者側が法的な知識を持っていない限りは、無難に一般的な法律に従って対応することになると思います。

この制度を病院等で活用していくためには、医療従事者への教育の徹底が必要かと思われます。(基本的に養成課程では法的なことはほとんど教わりません)
認知症の方も近年急激に増加しており、成年後見制度の利用が増えるように持って行く必要があると思いますが、それと同時に任意後見契約公正証書等、公正証書一般に関して医療従事者側への徹底した法的教育と討論が必要なのでは無いかと思います。

今後の連載も楽しみにしております。

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欧米よりも楽かも

カイカタ

最近、欧米諸国で同性婚が次々と認められ、ついには全米でさえ認められましたが、この問題に関しては民主主義の成熟度による比較だけでは日本の今後は予測...

最近、欧米諸国で同性婚が次々と認められ、ついには全米でさえ認められましたが、この問題に関しては民主主義の成熟度による比較だけでは日本の今後は予測できないと思います。案外、日本の方が早いかもしれません。

欧米の方が民主主義や市民の権利の意識が高いと思われますが、同性愛に関しては、欧米には日本にはない障壁がありました。それはキリスト教です。その点、日本には、宗教道徳的な嫌悪感は元から少なかったと思います。ただ、だからといって楽だと思いませんが。

渋谷で認められたので、次は東京都レベル、その次は国全体でパートナーシップ。ついには憲法改正して、民法改正という風にするのが順序でしょう。

また、同性婚が認められている国の同性配偶者の扱いの認知(配偶者ビザ発行)なんていうのも先決ですね。たしか米軍人にはすでに認めていると聞きましたが。

法律論は別に。本質論として、パートナーシップとは何か、結婚とは何か、子育てを含めて、どう捉えるかが大事だと思います。

それは、当事者であるかないかは別にしての話です。LGBTであれ、ない人も、生涯独身を選び、恋愛はつまみ食い程度でいいという人もいます。私もそんなところなので、渋谷区であれ国全体の同性婚であれ、当事者ではないと思っています。

ただ、社会にニーズがあるならそれにどう対応すべきかを同じ社会の構成員である限り、自分自身のこととして考えていくべきではないでしょうか。

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