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がん医療で注目 ACPとは?
患者と「最善」の治療探る
がん患者や家族が、医療チームと相談を繰り返しながら治療や療養の方針を決めていく「アドバンスケアプランニング(ACP)」が注目されている。
患者の希望や生活を尊重し、将来の状態の変化にも備えることで、納得感を高めていこうという試みだ。
進行性の胃がんを患うAさん(70)は、告知後、不安にかられていた。同居する妻や、独立した息子たちに迷惑はかけたくない。治療費は工面できるか。どんな暮らしが待っているのか――。思い切って、病院の緩和ケアチームの医師に相談した。単に患者の心身の苦痛を和らげるだけでなく、それを予防し、生活の質を高める役割だと病院で聞いたからだ。
医師は「あくまで見通しですが」と断って、先々の生活のイメージについて具体的に説明してくれた。
抗がん剤の副作用が重い場合と軽い場合で、通院の大変さや家族の負担がどう異なるか。再発後の経過や治療法の選択肢。体調の悪化などで意識が混乱し、自分で方針を決めにくくなる時期が訪れる可能性があること。体が衰えても、家で過ごすことができること、などだ。
チームの看護師も「奥さんも交えて、治療方針を考えていきましょう」と言ってくれた。自分や家族にとってどんな生活がよりよいものになるか、話しあっていける。大まかな方向性を家族を含むチームで共有し、その実現のために専門家が協力してくれる。Aさんは少しほっとした。
入院時、Aさんは、遺産配分や家族への思いなどを記す「エンディングノート」や、延命治療をどうするかを決めておく「リビングウィル」を自分で作らなければならず、いったん書くと内容は覆せないと思っていた。
だが、入院時も1年後の再発時も、医師らと丁寧な話し合いができた。リビングウィルなども、書いたらおしまいではなく、一緒に考え、書き直していくプロセスが重要だと教わった。
「今の時点でどうこうではないのですが、万が一、体調が崩れることになったら、どこで過ごしたいですか」とも聞かれた。時間をかけて考えるうち、Aさんの中で、過度な治療より妻と平穏に暮らす時間を優先したいという気持ちが固まっていった。
やがて、再入院。抗がん剤治療をどの程度まで行うか、抗がん剤が効かなくなった時、どんな療養を選択するかなどが話し合われた。Aさんが自宅療養を選ぶと、病院の医療ソーシャルワーカーや、連携する訪問看護師らが、Aさんの食事や入浴、トイレ、移動方法などについて、具体的にアドバイスした。
妻に付き添われての通院が続いたが、生活環境を快適に改善したため、ベッドに寝てばかりという日々にはならなかった。地域のかかりつけ医とも情報が共有され、Aさんは納得できる時間を過ごした。
死から目を背けずに自分のこととして引き受け、元気なうちから準備をすることで、自分の生き方を見つめ直すことができる。国は「診断がついた時からの緩和ケア」を提唱するが、それを実現させるプロセスがACPだ。
だが、ACP先進国の米国でも、実施率は多い州で3割程度。日本では、それぞれの病院で試行錯誤が続いている段階だ。
「患者さんが最善の意思決定をするため、どんな支援が必要なのか、倫理的な問題を含め検討を重ね、指標を作っていきたい。法的な裏付けも今後議論していく必要がある」と、国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)精神腫瘍科長の小川朝生さんは話す。(鈴木敦秋)
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