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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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ジェネリック80%、僕は大賛成

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 今日は後発薬の普及を80%以上にして医療費を抑制しようというニュースについてです。

 僕は大賛成ですよ。財務省のHPによると、日本の財政を家計に例えると、30万円の月収の家族が、40万円の生活をして、そしてすでに約5000万円の借金があって、その利子の返済に毎月13万円を使用しているそうです。つまり30万円しか収入がないのに、53万円の生活をしているということです。こんな状態であればいろいろな支出を抑える努力は当然に必要になります。そのひとつが医療費の抑制です。

 国民医療費は約40兆円で、薬局調剤医療費は7兆円弱です。その薬局調剤医療費を減らすためのひとつの手段が後発品の使用で、その使用頻度を80%以上にしようという作戦です。このまま医療費が増加を続けると、国民皆保険制度やフリーアクセス制度を維持することが困難になります。国民皆保険制度とは国民全員が基本的に医療保険制度に加入していて、保険診療であれば最大負担額が3割で、かつ毎月支払う医療費には所得による上限が設定されているというものです。フリーアクセスとは、どこの保険診療の医療機関にも基本的に自由に診てもらうことができるというものです。移住地や保険の種類、収入などによってアクセスが制限されることがないという素晴らしいものです。


「先発品と全く同じ」誤解解消を

 後発品とは「ジェネリック医薬品」と呼ばれるもので、製薬会社が社運をかけて懸命に努力して開発した新薬(先発品と呼ばれます)の特許が切れると、世の中に登場する薬剤です。新薬に課せられる血のにじむ努力が必要な研究開発や臨床試験は免除され、生物学的同等性試験をパスすれば発売できます。薬剤の血中濃度の推移が先発品とほぼ同じであれば後発品として認められます。

 僕はジェネリック医薬品の導入には大賛成ですが、2点是正していただきたいことがあります。ひとつ目は、「後発品が先発品とまったく同じだ」という誤解を解消してもらいたいのです。薬剤師の先生でもこのような説明を患者さんにしている方がいます。後発品は先発品と同じ主成分の薬です。主成分の特許をまったくまねているので当然ですね。つまり主成分以外は同じではないのです。患者さんにはあんパンで説明しています。「あんの成分は同じだが、パンに関しては同じではありませんよ。僕はあるメーカーのあんパンが大好物ですが、パンにも捨てがたい魅力がありますよね」と説明すると納得してもらえます。つまり、パンもほとんど同じで、先発品とほぼ同等という薬もあるでしょう。またはパンはまったく別物だが、その要素は無視するほど問題なく、あんだけが同じであればほぼ十分というものもあるでしょう。つまり使用してみないとわからないのです。ですから、僕が出す処方箋は後発品への変更は可能としていますので、患者さんご本人の判断で先発品か後発品かを決めてもらっています。またそういう説明をすると、後発品を試してみたがやっぱり先発品がいいようだという患者さんも多数います。医師自身もこの薬は先発品が断然良いという印象をもっているものも少なからずあるのです。ですから、先発品の金額と、そして自分が体感する効き目とのバランスでどちらにするか決めればいいと思っています。


後発品は自由価格にしてほしい

 2番目に是正していただきたいことは、後発品は自由価格にしていただきたいのです。現状では先発品と同じく厚生労働省が薬価として決めています。後発品と言っても、いろいろです。先発品と同じように効くものもあれば、先発品と比べると明らかに効果が落ちると多くの医師が感じているものもあります。ですから、自由価格にして消費者である患者が選ぶことがなによりフェアだと思っています。後発品の価格が先発品の1割となれば、少々効果が劣っても購入する人は多数いることでしょうし、ある意味理にかなっています。後発品の導入は医療費抑制のためです。ぜひ後発品は自由競争にして、患者さんがとんでもなくやすい値段で特許が切れた薬を購入できるようにしてください。血のにじむ研究開発や膨大な費用が必要な臨床試験を省略されて、ただ生物学的同等性があるという理由だけで市場にでている薬です。自由競争にまれて、よりよい後発品が生き残ることが、医療費の削減にも有益と考えています。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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