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性暴力救援センター・大阪 加藤治子代表(2)来所者の6割以上が未成年

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「『よく打ち明けてくれたね』とねぎらうような言葉を」と語る加藤医師(大阪市阿倍野区で)=若杉和希撮影

 ――全国でワンストップ支援組織をつくる動きが広がっていますね。

 内閣府が昨年度、都道府県などの自治体を対象に、性暴力被害者のためのワンストップ支援組織に関する調査研究をサポートするモデル事業を始めたことで、自治体による体制整備の機運が高まりました。現在、20か所余りでワンストップセンターが設立中、または準備中ですが、課題は山積しています。相談センターを医療機関と離れた場所に設ける「連携型」のセンターも多く、被害者が来所する常設の場所を医療機関の中に作ることがなかなかできていません。協力医療機関の確保が困難なことや、公的資金が出ない、十分な数の支援員を確保できない、24時間対応ができないなど、さまざまなハードルがあります。

 SACHICOの5年間の活動を振り返ると、日中よりも、時間外の来所の方が多くなっています。再診率が8割を超えているのは、初診時に引き続き診察する必要性を説明し、診察日の予約を入れ、来所しやすくしていることや、継続した支援を求めてくる被害者が多いからです。地域ごとの事情もあり、連携型でスタートする自治体が多いのが現状ですが、「駆け込み場所」となる医療機関が定まっていないと、きめ細かな対応ができず、初診後、被害者の足が遠のいてしまうのではないかと懸念しています。各自治体には、医療機関をベースに24時間、いつでも対応できる「病院拠点型」を目指してほしいですね。


 ――SACHICOでは来所者の6割以上が未成年なのですね。

 身近な人から性虐待を受けた子は、12歳ぐらいで打ち明けられるようになることが多いです。支える側の大人が動揺し、「なぜもっと早く言わなかったの?」「もう結婚できないかもしれない。かわいそうに……」などと言うことがあります。たとえ子どもを慰めようと思って言った言葉でも、これらは二次被害につながり、子どもを傷つけてしまうことがあるのです。「汚れてしまった」と思い込んでいる子には、診察した上で、「あなたは何も変わっていない。将来、普通に恋愛もできる」と伝えます。支える大人は、被害を開示したことに対し、「よく打ち明けてくれたね」とねぎらうような言葉をかけることが大事です。

 学校内で起きたケースでは、被害者が安心して登校できるよう、教員を交えて話し合い、対処法を助言することもあります。実際に起きてしまった場合、先生方はとても動揺し、対応に悩みます。生徒が被害を打ち明ける時、養護教諭を頼るケースも多いので、大阪府では、国のモデル事業を活用して昨年度、養護教諭らを対象に性暴力被害について知ってもらうための研修を行いました。


 ――スマートフォンの普及が助長する被害も問題になっています。

 家出少女が安らぎを求めて不特定多数の男性とつながり、児童相談所から「性非行」として紹介される例が目立ちます。背景には身体的虐待、性虐待、ネグレクト、貧困など、さまざまな問題が絡んでいます。家の中に居場所がなく、その寂しさを紛らわせようと、スマートフォンのアプリで簡単につながって、被害に遭っている子もいます。少女たちには被害意識がなく、「相手は優しかった」と言いますが、実際にはその場だけの関係で、男とは連絡がつかない状態になっており、その人の名前も住所も分かりません。相手が体目当てで近づいてきたことは明らかです。仮に分かったとしても、相手が「合意の上だった」と言えば、刑事事件にすることは困難です。

 自分のことを大切にされた覚えがない少女たちには、支援の場で「あなたのことを本当に大切に思っている大人もいるよ」ということを感じてもらおうと、支援員とともに話をします。残念ながら、性非行を繰り返し、何度も児童相談所から連れてこられる子もいるのが現実で、問題の根深さを感じます。

かとう・はるこ
 1949年、大阪市生まれ。大阪市立大医学部を卒業後、75年から阪南中央病院に産婦人科医として勤務。2010年4月、性暴力救援センター・大阪(SACHICO)を設立。性暴力救援センター全国連絡会の運営にも携わり、各地のセンター設立をサポートしている。

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