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日野原重明の100歳からの人生

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車椅子でわかる患者目線…相手の身になって考えよう

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 私が外出時には車椅子を用いることを余儀なくされたのはちょうど1年前のことでした。

 昨年の5月中旬、英国での学会出席の際に体調を崩して帰国し、すぐに聖路加国際病院に入院・検査となったのですが、まず病室から放射線検査室までストレッチャーで運ばれることになりました。

 外来患者やその家族の人たちの前をナースに押されてストレッチャーに乗って移動したのですが、この時初めて上から見下されるという患者の気持ちを味わいました。ストレッチャーのままエレベーターに乗せられた時には、果たして上に昇るのか下に降りるのかがよくわかりません。この時の不安も初めて感じるものでした。

 さて、超音波検査の結果、私には大動脈弁に狭窄きょうさくがあって、普通の人の3分の1しか弁が開かないことが判明しました。普通であれば手術で治るのですが、何しろ私は100歳を超えていますから、どんなに名医といわれる心臓外科医も私の手術を引き受けてはくれません。

 米国で心臓病の専門病院に勤務している私の三男は、私に車椅子の使用を勧めてくれました。車椅子を使い始めた頃は、うつむいたり、さりげなく右の手で顔を隠したりしていたのですが、その不自然さが自分でも嫌になり、いつものように「逆転の発想」に挑戦することにしました。つまり、「隠す」のではなく、「見せる」のです。私のほうから積極的に「やあ、こんにちは」と言うのです。それ以来、今では車椅子での移動に自然に身を委ねて、心臓への負担を軽くしています。

 超高齢社会では車椅子の人もどんどん増えることでしょうが、あなたの目の高さよりも少し低いところを移動している車椅子にも気を配ってほしいと思います。

 話は変わりますが、東京郊外の病院に入院して治療を受けていたある患者さんの奥さんから訴えられた話です。

 主治医から「明日、ご主人の詳しい結果がわかるので聞きに来てください」と言われました。当日、奥さんが指定された時間に廊下で待っていると、主治医が前を通って行きました。奥さんが「先生」と呼びかけたら、その主治医は廊下を歩きながら「実は、ご主人は、がんでした」と言って、そのまま立ち去ったそうです。その夜、奥さんから私に電話がかかってきました。大切なご主人の重篤な病状について、歩きながら話すような医師を主治医にしたくないので、私に主治医になってほしいという内容でした。

 現在、医療者には患者さんや家族とのコミュニケーションがいかに大切かについて、模擬患者などを使って実地に教育しているようですが、それでもコンピューターの画面に目をやったままで患者を見ずに話したなどという苦情はしばしば耳にします。

 外出や出張には車椅子に乗って出かける生活になってから1年がちました。車椅子から眺める世間もなかなか格別のものです。「相手の身になって考えてみる」という想像力は、医療者ばかりでなく社会全体に求めたいものです。

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日野原重明ブログ_顔120_120

日野原重明(ひのはら・しげあき)

誕生日:
1911年10月4日
聖路加国際病院名誉院長
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