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米の精神科医 フィッシャーさん…統合失調症に「心の対話」

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寄り添い、活力引き出す

「大切なのは心の対話だ」。表情豊かに講演するフィッシャーさん(東京・参院議員会館で)=川口敏彦撮影

 米国の精神障害当事者運動のリーダーの一人、ダニエル・フィッシャーさん(71)が5月に来日し、大阪と東京で講演した。

 脳科学の研究者だったが、統合失調症を発病後、精神科医になった異色の経歴。薬物療法中心の現代の精神科医療に対し、「心の対話」による回復を強調した。

 「つらい状態の時、大切なのは他の人がそばにいて支えること。情緒的な危機にある人は、自分の中だけの会話にとらわれている。その人とつながり、心と心の対話をすることで、心の傷を癒やせる」

 フィッシャーさんは、講演でそう語りかけた。

 中心になって開発した「エモーショナルCPR」という方法は、あらゆる人が使えるように作られた。CPRは心肺蘇生法のことで、精神的危機の救助という意味を込めて名付けた。

 「目、耳、心を動員してその人の存在を感じる。苦しみをわかちあう。治したり裁いたりしようとせず、一緒に居続ける」

 「重要なのは、態度。心の対話を通じて、その人が持っている力を引き出すことができ、新しいエネルギーや創造性が生まれてくる」

 フィッシャーさんは脳内で働く神経伝達物質について研究していた。統合失調症のメカニズムを解明するためだった。

 ところが25歳の時、変調をきたした。

 「警察に追われている、カメラで録画されている、テレビが自分に話しかけてくる……。恐ろしくて実験室に行けなくなった」

 家族に連れられて精神科病院に入院。強い薬を打たれた。この時は2週間で退院したが、翌年、全く口がきけなくなり、5か月間入院した。閉鎖病棟に入れられ、外から施錠される保護室にも隔離された。

 「唯一の支えはそばにいてくれた若い看護師。脳の研究をしても役に立たない。愛と意味のある仕事がしたい。精神科医になろう、と決心した」

 医学部に進んでから3回目の入院を経験した。

 「神経伝達物質の変化は病気の原因ではなく結果にすぎない。おおもとにある心の痛みや苦しみから解放されることが肝心だ、と考えるようになった」

 精神科医になって地域で診療にあたりつつ、当事者運動に加わった。その中で打ち出した重要な考え方が「リカバリー」(回復)だ。病気が治るかどうかより、希望を持ち、人生と生活を取り戻して社会に参加することを重視する。

 それを支える手段としてピアサポート(精神障害を経験した仲間による支援)や、入院に代わる休息施設を求めてきた。

 来日は10年前に続いて2回目。「当事者が前に出て発言するようになったのは大きな変化だ」と喜ぶ。一方で、30万人近くが精神科に入院し、保護室への隔離や身体拘束も多い日本の現状を聞き、「悲しい。怒る必要がある。怒りを変化に向けよう」と呼びかけた。

 統合失調症に薬は意味が乏しいという主張に記者は賛同できない。しかし、病気を「悪い状態」とだけとらえ、患者に寄り添わずに「管理」に力を入れることの多い入院医療を見直すべきなのは確かだろう。(大阪本社編集委員・原昌平)

 ◆メモ フィッシャーさんは1943年生まれ。生化学を専攻して博士号を取得。統合失調症を発病後、医学部に入り、精神科医に。92年に当事者団体「ナショナル・エンパワーメントセンター」を設立し、今年4月まで代表。2002~03年に連邦政府の「精神保健に関する新自由委員会」の委員を務めた。米マサチューセッツ州在住。

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