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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

高齢不妊・高齢出産の情報 誤解が一人歩きしていませんか?

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ラプンツェルのレゴで遊ぶ娘です。どんどんレゴが増えていってます

 妊娠15週に入り、つわりはだいぶ落ち着いてきました。代わりに腰痛がひどくなってきて、娘を抱っこするのがつらいです。娘は時々「赤ちゃん見せて」と言うのでおなかをぺろんと出すと「見えない〜」と言いながらなでているかと思うと、お腹の上に乗ってびはねたり、お腹を攻撃してきたりするので、きょうだいの誕生を楽しみにする気持ちと、親を独占できなくなるというアンビバレントな気持ちで、複雑な状態なのかなあと思って見ています。

年齢を重ねると妊娠しづらく 大事な情報ではあるけれど

 先週の記事に、たくさんの反響をありがとうございました。高齢出産に対してネガティブな情報ばかりが目立つ昨今、アラフォー世代に「今こそトライ!」と書いたので怒られるかと思いましたが、意外にそうでもなく「これは新しい」と言われたりしたのは驚きでした。

 少し前までは、高齢出産に成功した芸能人のニュースなどの影響により、「40歳でも望めば妊娠できる」と誤解している人が多かったのですが、年齢とともに妊娠しづらくなることが伝えられ始めると、意外なほどセンセーショナルに受け止められるようになりました。

 私の参加していた少子化危機突破タスクフォースでも、年齢による変化を含めた生殖に関する正しい知識を若いうちから男女ともに知ってもらおうというコンセプトで皆で頭をひねりました。高齢不妊のため卵子提供を受けて妊娠した野田聖子さんも、教科書にその事実を載せるべく努力されたそうです。

 年齢とともに妊娠しづらくなるということが広く知られること自体は必要なことだと思います。ただ、近年のそういった動きと、実際の20〜40代の女性の反応を見ていて、大きく二つの問題点を感じました。

正しい知識を持っていても、妊娠はままならないもの

 一つは、「若いうちから生殖に関する知識を持つことが必要である」ということと「若いうちから知識を持っていれば計画的に人生が送れる」ということを混同している人(偉い人を含め)が非常に多いということです。裏返せば、「晩婚化・晩産化による高齢不妊・少子化は、女性が生殖に関する知識を持っていなかったため」だと思っているということです。

 これについては、実際に生殖医療施設の門を叩く人で「年を取ったら妊娠できなくなるなんて知らなかった。知っていれば……」と言う人が珍しくないそうで、「知ってさえいれば早めに産める」と思ってしまう気持ちはわかります。しかし、何度も言いますが妊娠は一人でできるものではなく、パートナーと、産み育てられる環境が必要です。

 先週の記事にも書きましたが、晩婚化は非正規労働だったり、勤め先の経営が不安定だったりして、結婚に踏み切れない人がいることも一因ですし、パートナーとのマッチング、妊娠が受け入れられる職場環境などは個人だけの問題ではないし、努力でカバーできるものではありません。

 これも何度も言いますが、私は25歳で産婦人科医師になり、高齢妊娠のリスクや高齢不妊について日々ひしひしと実感していましたが、第1子を産んだのは35歳でした。それは決して「のんびり」「好きなこと」をしていたわけではなく、ただただ産める環境が整わず、結果として仕事に邁進まいしんし、オフでは趣味を充実させるに至っただけなのです。遅いように見えて、35歳で産めたことはラッキーが重なったからだと自分では思っているくらいです。

 誰にとっても人生は思い通りになりません。正しい知識の啓発が、今後「知っていたのに計画的に行動できなかった」「高齢不妊は女性の自己責任」と認識されていかないか不安に感じています。

年齢のリスク情報 年代によって違う受け止め方に

 もう一つの問題は、先週の記事にも書きましたが、メディアの情報提供は得てして受け取る相手を選べません。例えば私は、20代OL向けの女性誌とアラフォーバリキャリ向け女性誌には全然違ったメッセージを発信させていただいていますが、テレビやネットのニュースにはそこまでの住み分けはないようです。今若い人たちには、高齢出産や高齢不妊のことを知って、人生の岐路に立つ度にその知識をふまえて判断してもらえればとてもいいと思います。しかし、すでに高齢と言われる年齢やそれに近い年齢の女性にとっては、がっかりして妊娠をトライすることを思いとどまらせてしまうことになりかねないのです。

 先週の記事に対して「今まで高齢出産は迷惑というような情報しか見なかったので元気が出た」というような反応をたくさんいただきましたが、「できるなら早く産んだ方がいいよ」というメッセージが、ある層には「もうやめといたら?」というふうに伝わっているという、情報提供の難しさを改めて感じました。

 これまで見かける情報で、比較的抜けていると感じたのは、「生殖能力は年齢による差も大きいが、個人差も非常に大きい」ということです。ネガティブな情報のせいで、子供を望んでいてトライすれば妊娠できるかも知れない人が諦めてしまうのは、その人にとっても日本全体にとってもとてももったいないことです。産婦人科医の視点で見ると、確かに高齢出産は若い人に比べるといろんなリスクはありますが、一方で高齢出産の大半の人が母子ともに健康で出産を終えるのも事実です。「迷惑だから子供を産むのは諦めて」とは思っていませんので、トライするまえに諦めないでほしいです。

 前回の記事に対して、「ワンモアベビーを持ってもいいと思える政策」についてアイデア寄せてくださった方々、ありがとうございます。今後の各方面の活動で必ずかしていきたいと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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10件 のコメント

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将来のことは想像できない。

みやってぃ

「年を取ったら妊娠できなくなるなんて知らなかった。知っていれば……」と言う人が珍しくないそうで、「知ってさえいれば早めに産める」と思ってしまう気...

「年を取ったら妊娠できなくなるなんて知らなかった。知っていれば……」と言う人が珍しくないそうで、「知ってさえいれば早めに産める」と思ってしまう気持ちはわかります。

↑高齢出産のことは知っているが、自分の人生がこうなることを「知らなかった」と言っているのではないですか?
ある年齢に達すれば自動的に結婚・出産に至る【はず】だった。けれども、そうならない人生を想像できなかった(知らなかった)のだと思う。
私自身がそう感じているので。
来年、いや、明日のことですら実際はわからなくて流されるままになっています。

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私もあと二人欲しいです

ゆーまま

1歳3ヶ月の息子がいます。現在40歳で難しくなってきていると思いますが、望みはあと二人、少なくとも一人は産みたいです。転勤したばかりで、あと1年...

1歳3ヶ月の息子がいます。現在40歳で難しくなってきていると思いますが、望みはあと二人、少なくとも一人は産みたいです。
転勤したばかりで、あと1年は職場での責任もあり、身軽でいるべきと決めています。今のPJが一段落したら、後輩に引き継ぎつつ妊活に励みたいと思っています。その場合は転勤もキャリアもストップですが、将来子供に囲まれて過ごす日々のほうが輝かしいと一人目が出来て気づきました。
自宅は数年前に「子供一人」と決めつけて買った狭いマンションですが、この狭い部屋で家族5人でドタバタ過ごす日々が待ち遠しい。
なら今すぐに妊活しなきゃ!と言われそうですが、私の仕事ぶりを買って引っ張ってくれた今の上司に迷惑かけたくないのと、今のPJを一段落させたい自己満足の為に、あと1年我慢します。
そう上手くいかないよーと言われかねないですが、先生の記事に励まされました。何を言われようと頑張りたいと思います。

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39歳ですがあと2人

キラキラ

私は5ヶ月の子がある39歳です。出来ればあと2人を産みたくて妊活中です。先生の言葉は励みになります!がんばります!

私は5ヶ月の子がある39歳です。
出来ればあと2人を産みたくて妊活中です。
先生の言葉は励みになります!
がんばります!

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