文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

yomiDr.記事アーカイブ

MERS、どこまで隔離すべきか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 今日はお隣、韓国でパニックを引き起こしているMERS感染症についてお話しします。

 上記の記事によれば死者は10人、感染者は122人です。

 まず、MERSとは中東呼吸器症候群のことで、英語では Middle East respiratory syndrome coronavirus で、その頭文字をとってMERSと呼ばれています。2012年にイギリスで最初に人の感染が確認されました。人への感染が確認されたのが数年前で、今まで1000人を超える感染者が確認され、400人を超える死者を出しています。我が国の通称・感染症予防法(正確には、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)では、2類感染症に分類されています。2類感染症には他に、ポリオ、結核、ジフテリア、SARS、鳥インフルエンザがあります。


今のところ、ワクチンも治療薬もない

 同じ2類感染症でも結核はワクチンも治療薬もあります。ワクチンはBCG、直接的な治療薬は抗生物質です。ところが、MERSには現在のところ、ワクチンも直接的な治療薬もありません。そしてまだまだ実態が不明です。数年前にはじめて人への感染が確認されて、患者数も1000を超えたばかりなのですから。さて、お隣の韓国でのMERSの流行からわかったことは、(1)人から人に間違いなく感染する、(2)確かに死亡することがある、(3)若い人も感染する 、といったことです。僕が今後興味のあることは、隔離対象となっている人々から何人の感染者がでるのか、そして以前から言われているように感染者の4割近くが本当に死亡するのか、どれぐらいの健康な人々が感染し、そして死亡するのかです。

 僕たちのMERS対策はまだまだ不明な点が多いのです。できることをやるしかありません。流行地への渡航を自粛することがもっともわかりやすい方法ですが、どうしても仕事で行かざるを得ない方には、強制力はありません。ただただ、日本国内にMERSが入ってこないことを祈るばかりです。まったく医療従事者っぽくない発言ですが、いろいろなことが明らかになっていない以上、致し方ない対応です。感染経路は接触感染か空気感染かも実は不明です。潜伏期間も2日から14日などと言われていますが、これも明らかではありません。


厚労省も悩んでいる?

 日本ではすでにMERSの確定診断は迅速にできるような体制は取られています。MERSは特定のコロナウイルスによる感染症なので、ある程度のウイルス数になれば確実に把握できるのです。そして、国内でMERSの感染が確認されたらどうするかという問題です。日本の医療は世界一と思っていますので、感染した患者さんの治療に関しては心配していません。ある意味、感染症治療の医療設備が整った施設にお任せするしかありません。問題は、どこまでの人を隔離するかです。厚生労働省のMERSのHPをみると、(4)感染が疑われる患者の要件のウに「発熱又は急性呼吸器症状(軽症の場合を含む。)を呈する者であって、発症前14日以内に、中東呼吸器症候群が疑われる患者を診察、看護若しくは介護していたもの、中東呼吸器症候群が疑われる患者と同居していたもの又は中東呼吸器症候群が疑われる患者の気道分泌液若しくは体液等の汚染物質に直接触れたもの」とあります。つまり、感染者と隣同士に座っても、並んで立っていても、体液や汚染物質に触れなければ該当しないということです。しかし、冒頭に、「ただし、必ずしも次の要件に限定されるものではない。」とも書いてあります。厚生労働省自体も悩んでいる様子が僕には感じられます。

 どこまでを隔離対象にして、どのような隔離を行い、そこにどの程度の強制力を持たせ、その隔離規制に従わないときにはどのような罰則を設けるのかなどは実は大問題なのです。そして隔離を強要して実は発症しないときなどは、その人への賠償をどうするのでしょうか。元気なのに働けなくて、そして賃金がもらえないという結末になりかねません。MERSは風邪と同じような症状で発症します。本人が感染者と接触したとか、感染地域に滞在したとかを自己申告する必要があります。もしもMERSが日本で確認されたら、「人は正しいことをする」、「世の中のために自分を犠牲にする」、「公の命令には従う」という性善説で上手うまく乗り切れることを祈っています。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常の一覧を見る

最新記事