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宮本顕二・礼子夫妻(3)安らかに命を終えるために

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 ――社会通念にまでしていくのはなかなか難しいです。

 礼子「啓発は大事ですね。特に新聞やテレビの力は大きい。それがあったから、ここまで変わってきたと思うのです」

 顕二「医師教育も必要ですね。日本の大学では終末期医療を教えることはほとんどないです。アメリカでは、内科学の世界的なスタンダードであるハリソンの内科学の教科書の第1章に、終末期医療について詳細に記載されています。終末期は緩和医療を行うべきとはっきり書いてあります。教科書からして違います。医学教育も変えていかないと、医師の意識改革は難しいかもしれないですね」

 礼子「アメリカは、終末期医療を重視しているということですね。日本は軽視し過ぎています。日本の医療では、穏やかに死を迎えることの大切さが認識されていません」

 

 ――先生方のこの本は、どういう方に読んでもらいたいですか。

 礼子「医療者と一般の人の両方です」

 顕二「両方ですね。枯れるように死んでいくのは、本来の自然な姿。それを良しとする風潮を、みんなが持って欲しい。もちろん医療制度の問題もありますけれども。多死社会で、政府は在宅の看取みとりばかり言っていますけれども、無理な延命処置をしなければ、今の病床数でも十分間に合うんです」

 礼子「自宅や施設だけで看取るのは無理です。看護師がいない施設も多いので、介護の人に看取りなさいというのは酷です。自宅で死んでいけることは幸せですが、みんなは無理だと思います。自宅で死ぬ人、施設で死ぬ人、病院で死ぬ人があっていいと思いますが、どこで死んでも安らかに死ねることが大切と思います」

 顕二「病院というと、病気を治すところと思われるけれども、いい死に方を提供するのも病院の役割です」

 礼子「本の中でも書きましたが、私が現在勤務している認知症治療病棟の看護師が、『今まで、内科病棟で通常量の点滴をして亡くなった患者さんは皆苦しそうだったけれど、ここの病棟で食べるだけ飲めるだけで点滴を行わなかった患者さんは、どの人も死に向かって穏やかになっていった。こんな穏やかな死は見たことがない』と言っていました。別の看護師は、『若い頃は、病院は医療処置をするところだと思っていた。しかし今は、何もしないで穏やかに看取って上げるのも私たちの仕事だと思えるようになった』と言っています」

 

 ――心配なのは、胃ろうが悪いというイメージが先行したり、すべての医療処置が悪いと信じ込んで、必要な医療も受けなくなることです。医療側も、無駄な延命治療をやめるという考え方を利用して、必要な医療を怠ることがあってはいけないですね。

 顕二「そうです。何もしないということではないです。必要な緩和医療はどんどんやるということを強調したいです」

 礼子「認知症や高齢者であっても必要な治療はしなくてはなりませんし、早々とあきらめる『みなし終末期』があってはなりません。本当に終末期か正しく判断する責任が医師にはあります。そして、本当に終末期であるならば、無駄な医療はしない代わりに、緩和医療を積極的にやりましょうということです」

 「胃ろうは悪いが、鼻チューブは悪くないと誤解している人がいます。その誤解から、胃ろうが減り、鼻チューブや中心静脈栄養が増えるということが起きています。しかし、鼻チューブはもっと苦しいものです。問題は、経管栄養や点滴で無理に生かされている、という点なのです」

 

 ――本の中で、胃ろうを造る立場にある医師の息子さんが、必要な胃ろうもあると強調されていましたね。

 顕二「はい。なんでも極論に走ってはいけないと思います。がんでも、一切の治療を拒否するというのは極端な話。治る患者もたくさんいるのですから。胃ろうは栄養を送る良い手段です。それをどのように使うかが問題なのです。胃ろうを作る対象が広がりすぎているのが問題なのです」

 

 ――最後に、お二人はまだお若いですが、互いを看取る時には、どうしてあげたいと思っていますか。

 礼子「私は事前指示書も残しています。夫も同じように自然に見送ってあげたい」

 顕二「好きなようにしてあげたいですね。望むようにしてあげたい」

 礼子「こうして日頃から死ぬ時のことを考えていると、1日1日が大切に思えてきます。どのように生きて、どのように死んで行くか、一人一人が真剣に考える時に来ていると思います」

【略歴】

◆宮本顕二(みやもと・けんじ)
 北海道中央労災病院長、北海道大名誉教授。1976年、北海道大卒。日本呼吸ケア・リハビリテーション学会理事長。専門は、呼吸器内科、リハビリテーション科。「高齢者の終末期医療を考える会」事務局。

◆宮本礼子(みやもと・れいこ)
 桜台明日佳病院認知症総合支援センター長。1979年、旭川医大卒。2012年に「高齢者の終末期医療を考える会」を札幌で立ち上げ、代表として活動。

 

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