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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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「わたしの医見」に僕の回答

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 今日はyomiDr.の【わたしの医見】への投書に回答する形で書き下ろします。

【わたしの医見】消えない疑問
東京都西東京市 無職女性 88
 2年前の春、58歳だった娘は、ある病院で大腸がんの手術を受けた。約1か月半で退院したが、半年ほどすると、手術の傷口から膿が出始めた。主治医は「がんは全て切除しました。うみが出ても問題はない。仕事も大丈夫です」と言った。

 医師の言葉を信じて娘は事務の仕事に復帰した。出勤前にはガーゼ交換のために2か月近く毎日、この病院に通った。だが、不安を抱いていた家族が強く勧めて、別の大きな病院を受診すると、「手術ができないほど、大腸がんが進行しています」と告げられた。

 緩和ケアの病院やホスピスなどで半年余り過ごし、娘は昨年8月に亡くなったが、「なぜ」という疑問が解消できない。手術をした医師に説明を求めるべきか、悩んでいる。



躊躇せず説明を受けて

 娘さんのご冥福をお祈りします。そして、当然に主治医に説明を求めるべきと思います。「なぜ」という疑問が解消できないのであれば、なんで説明を求めることを躊躇ちゅうちょするのですか。僕のコラムでは常々医療は100%安全ではないというメッセージを送っています。そして今できる最良と思われることを行うのが医療だというメッセージも送っています。実は何が正しいかわからない中で、精一杯最良と思うことを探して、そして医療行為を行っているのです。

 そんな医療です。思うような結果にならないことも、実は少なからずあります。だからこそ、疑問に思えば、しっかりと説明を聞く必要があります。

 まず、主治医に話を聞きに行く前に、ご家族全員で話し合って下さい。実は家族のなかのキーパーソンが娘さんの本当の病状を聞いていた可能性もあります。あなたに心配を掛けたくないので、あなたにだけ真実が伏せられていた可能性もあります。そして家族の誰もがやはり何も知らされていないのであれば、先方に意見を聴きに行きましょう。突然に説明をしろと言われても、先方も忙しいでしょうから、あらかじめ連絡をしておきましょう。亡くなられたケースの説明ですので、30分以上の時間は必要だろうと思います。そして複数で主治医の説明を聞きに行きましょう。あらかじめ、説明して欲しい内容をメモしておくことも大切です。病院で説明を聞くと、ついつい本当に質問したかったことを聞き損ねることがあります。また、説明内容は先方の了解をとって録音しましょう。録音することを拒否するような病院は不誠実です。


納得いかなければ、他の医師に相談を

 通常は、主治医の話を聞くと、納得するケースがほとんどと思います。残念な結果ですが、諸般の事情を聞いて、納得できればそれで終了です。問題は、主治医の説明を聞いても納得できないときですね。そんな時は、その録音テープを医療関係者に聴いてもらいましょう。そして複数の医療関係者が「致し方ない経過だ」ということになれば、家族が納得できなくても、それが医療の限界です。もしも、医療関係者も納得できないというようなケースであれば、カルテのコピーを取り寄せて、そして再度、主治医に意見を聴きに行きましょう。カルテの開示はどこの病院でも、手続きを踏めばOKのはずです。

 弁護士の先生にお願いする方法もあります。しかし、それは最後の手段と思っています。先方の態度があまりにも悪い、何度聞いても納得できない、主治医が全く会ってくれない、そんな時は、法的な専門家に依頼しましょう。こちらには法的な行動を取る用意があるという雰囲気を醸し出しておくことは、ある意味大切です。

 さて、今回のケースを僕が判断するには情報が少ないのです。僕の疑問は、まず大腸がんで1か月半の入院は長すぎるということです。相当進行したがんか、術後の合併症があったのではないかと思います。そして「手術ができないほど、進行した大腸がん」と別の病院で言われて、それを最初の病院がまったく気づいていないのであればそれ自体が大問題です。本当に気が付いていなかったのか、カルテにまったく進行大腸がんという記載がないのかを調べましょう。

 「なぜ」という疑問が解消できないことが最重要な点です。多くのケースで家族が主治医から直接話を聞くと納得できることが多いと思います。躊躇せずに、まず主治医から娘さんの経過についての十分な説明を受けて下さい。相談できる医療関係者がいないのであれば、編集部にまたご連絡ください。僕がお答えします。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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