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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

「耳鳴り」ならぬ「目鳴り」…視覚の雑音の正体は?

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 耳鳴りは、誰でも知っているし、実際に体験がある人も多いでしょう。勝手に何か存在しない音が聞こえる状態で、我々にとっては雑音でしかありません。

 実は、「目鳴り」というべき、視覚の雑音もあります。

 両眼に入った視覚信号は脳に送られ、そこで最終的に認識したり、記憶と対比したり、言葉にしたりします。ものは眼で見ているのではなく、脳で見ているといってもよいでしょう。

 ところが、よい方の目からはきれいな画像が脳に入ってくるが、病気の側からの画像はゆがんでいたり、目的でない場所の画像が入って来たらどうでしょう。

 健常な人なら、合わない眼鏡のレンズを片目に掛けた状態を想像して下さればいいでしょう。そちらの目の画像は邪魔になり、見ていられず目をつぶりたくなるに違いありません。これが、私のいう「目鳴り」です。目をつぶるとは、目鳴りを排除しようとする行動にほかなりません。

 ところで、前回紹介した高橋政代さんらのグループが、今対象にしている病気は、滲出しんしゅつ性加齢黄斑変性でした。網膜内や下に出血しやすい新生血管がどんどん出来てしまう病気です。両目に起こるのは20%だけで、多くは片目に出現します。そういう場合に、この目鳴りが発生します。

 治療は、網膜光凝固、光線力学療法、新生血管の増殖を抑える薬物(抗VEGF薬, VEGFとは血管内皮増殖因子のこと)の硝子体内投与、新生血管板の手術による除去などいろいろなことが試みられてきました。今では、抗VEGF薬の投与が主流ですが、繰り返し投与が必要で、それでもなかなか新生血管の活動を止めにくいことがあります。

 そういう難治例に対して、手術と、iPS細胞(人工多能性幹細胞)由来の網膜色素上皮を移植したのが高橋先生たちの仕事で、画期的な成果でした。 

 ただ、医師がうまくいったと言っても、患者として、大してよくなっていない、ほとんど変わらない、あるいはかえって見えにくくなったと感じることはよくあることです。

 片目の加齢黄斑変性では、そちらの目に必ず「目鳴り」が生じます。

 目鳴りがあると、見えにくい以外に「まぶしい」「目が痛い」「長く見ていられない」などいろいろな自覚症状が表れます。まさに目に雑音があるような訴えですね。治療は、その雑音のボリュームを下げるために行うと考えればよいのです。

 この病気では、治療が成功したとしても、病気自体がすっかりなくなって元通りの目になるということではありません。患者の側がそこを間違えて理解すると、医師患者間にとんだトラブルになることがあります。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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