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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

小雪さん発言炎上に思う 産んでも産まなくても、誰かに何かを言われます

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遠足で新宿御苑に行きました

 先週金曜日は幼稚園の親子遠足で新宿御苑に行きました。天気がよくてたくさんの幼稚園が遠足に来ていました。娘はとても楽しかったようですし、私もママさんたちといろいろお話できていい機会でした。帰った後に娘は何回も「遠足楽しかったね!お弁当美味おいしかったね!」と言っていました。そしてその後、入園後初めて「幼稚園に行きたい」と言いだし、親としてはとてもうれしいことです。

小雪さん「親になって初めて人間に」発言、ネットで炎上

 先日、第3子を妊娠中の女優の小雪さんが映画の製作報告会見で、ポーランド・ロケで2人の子どもと離れて撮影したことについて、「強くならざるを得ないです。女性としても女優としても、いろんな経験をさせていただいて、プラスになっている。親になって初めて、人間にさせてもらっているなと思う」と話したことが記事になり、「親になって初めて人間になるということは、子どもがいない人は人間ではないということか」とネットで炎上したということです。

 文脈から言うと、子育ての経験で人間として成長できたという意味で、子どものいない人を人間ではないというつもりは小雪さんには毛頭ないだろうということは、冷静に読めば分かるはずなのですが、言葉尻を捉えて騒ぎにするのがネットの華なのでしょうか。当該発言が心に引っかかった人というのは「子供を持ってこそ一人前」という世間の空気に反発してきたか、肩身の狭い思いをしてきた人も多いかもしれないと思いました。

 かといって、子供を産んでも好き勝手に言われるのが世の常です。小雪さんの発言と言えば度々こちらのブログで引用させてもらっていますが(「小雪さんで話題 韓国の産後院」、「産後クライシス…夫婦仲が急激悪化」、第1子出産後「最初のうちは育児が大変で子供を可愛かわいいと思う余裕がなかった」との発言が新米ママたちの共感を呼びました。しかし、世間的には「可愛いと思えなんて母性が足りない」などとネガティブな反応も目立ったようです。

 ざっと見ただけでも、こちらのブログで小雪さんのこの発言を2~3回は引用していますが、思えば他に芸能人の方でこのような率直な発言をする方はなかなかいないように思います。余裕がなかったと発言するだけで批判されるようでは、好感度が大切な芸能人の方々が「パパと赤ちゃんの愛に包まれて幸せです」とか「しんどいときもあるけれど、子供の笑顔を見ると吹き飛びます」のようなポジティブなことしか言わないのは仕方ないと思います(それでも赤ちゃんを居酒屋に連れて行ったり、長めのうどんを与えたりしたら叩かれるような世界です)。

ポジティブ育児発言、時にプレッシャーに

 しかし、表に出ている方々が妊娠・育児についてポジティブなことしか言わないことは、世の妊婦さんやママたちにとってプレッシャーになっています。実際に、診療その他で妊婦さんや小さな子供を持つお母さんたちと接していると、「芸能人のブログを見るとあんなに幸せそうなのに、私の妊娠生活は不安とストレスでいっぱいです」「私はなんて優しくない母親なんだろうって落ち込みます」という声はよく聞きます。芸能人にしろ、身近なお友達のSNSにしろ、見せるためのものと実際は違いますよ、ストレスがあって当たり前ですよ、と少しでも心が軽くなるよう伝えています。

 世の中には「愛情」や「母性」があればどのようなことも耐えられるはず、むしろ喜びであるはず、と思っている人が少なくないと思います(医療従事者ですら、授乳中は疲れないホルモンが出るので寝なくてもしんどくないはずです、おっぱいこそ愛です、というようなことを言って産後の母親を追いつめる人がいるくらいですから無理もありません)。

「母性」や「愛情」 心の余裕や周りの支援があってこそ

 しかし、現実の育児は自由がきかず、身体的精神的に負担であること、「母性」や「愛情」は自動的に湧いてくるかのように思われていますが、赤ちゃんを可愛いと思うためには心に余裕が必要です(産後うつスコアと赤ちゃんへの愛着スコアは相関し、産後うつの人は赤ちゃんへの愛着が低いというデータがあります)。

 私自身はやんちゃな娘を育ててきて、いっぱいいっぱいになることもありましたが、娘が可愛すぎて仕方ないという親バカな3年間を過ごしています。しかし、それは私が元来「母性にあふれた母親」なのではなく、家族をはじめ育児や生活、仕事を支えてくれるたくさんの方々や不便でない環境のおかげで、子供を可愛いと思う余裕があるのだと思います(そして、両親が私に愛情をかけて育ててくれたこともあると思います)。ぜひ「私は、自分の子供が可愛いと思えないような人には共感できない」という人も、母性や愛情はすべて「自前」ではなく、環境にもよるということを理解していただきたいと思います。

 赤ちゃんを産んでダメージを受けた体ですぐに始まるろくに眠れない生活、決して自分の思い通りにならない人間のすべてを世話し、目を離さず安全と健康を守る毎日、善悪を教えて行くことは、本気で想像すれば大変だろうなと思うはずです。それに対して無関心でいたい、直視したくないという人にとって都合がいいのが「母性神話」なのではないでしょうか。

 ライフスタイルの見せ方も仕事のために重要な芸能人の方たち。気苦労も多いでしょうが、きれいごと以外の発言も私は応援したいです。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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141件 のコメント

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これじゃ本当に何も言えないね。

さるこっこ

走りたくても走れない人 見たくても見えない人 聞きたくても聞こえない人 勉強したくても環境がさせてくれない人 親に愛されたくても愛されない人 働...

走りたくても走れない人
見たくても見えない人
聞きたくても聞こえない人
勉強したくても環境がさせてくれない人
親に愛されたくても愛されない人
働きたくても働けない人
産みたくても産めない人

みーんなに配慮しなきゃいけないんだったら、もう何にも言えなくない?

映画を観てきました。

私は見えないのに。

運動してきました。

私は走れないのに。

就職が決まりました。

私は働けないのに。

出産、育児を通して成長できました。

私は産めないのに。


こんなの、おかしいよ。

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うーむ

無言

母親になって見方が変わってきたのでしょう。 ただ、配慮は必要かな。 虐待する親もいるわけですし、親にならなくとも生き方はあるから。 もし、彼女の...

母親になって見方が変わってきたのでしょう。
ただ、配慮は必要かな。
虐待する親もいるわけですし、親にならなくとも生き方はあるから。
もし、彼女の子供達が親にならなければ?その時にわかるかもしれない。

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劣等感と炎上

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小雪は、子育ての事、自分の事、素直に発言している。 素直でも他人を傷つけてはならない。 でも、これは小雪が傷つけているのではなく、周りの人間勝手...

小雪は、子育ての事、自分の事、素直に発言している。
素直でも他人を傷つけてはならない。
でも、これは小雪が傷つけているのではなく、周りの人間勝手な解釈をして傷ついているだけの状態と思う。
まず、今回の小雪の場合は、自身が芸能人という特殊な立場の人間出あることが大前提。小雪のような大女優が、なかなか人間らしい生活は難しかったのでは。
そして、出産という動物的な行為によって、芸能人からいわゆる一般人の人間らしい生活に戻れたんだと思う。
だから「親になって初めて人間に」の発言。ごくごくナチュラルな流れの発言。

文脈からそこを読み取る理解力のない人が、小雪の言葉の揚げ足をとるように「親でない人間は人間でない」とゆがんで解釈する。悲しい。悲しいのは、理解力のなさだけで無く、本人の劣等感の大きさだ。
子どもを持てない劣等感。本人のせいだけではなく、「子どもを持つのが当然」のこの社会のせいだろう。
とにかく小雪は悪くない。とつくづく思う。

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