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中村祐輔の「これでいいのか!日本の医療」

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わずかな予算で大きな野望

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 5月8日号の米国Science誌に「Japan’s ‘NIH’ starts with modest funding but high ambitions」(日本版NIHはわずかな予算で大きな野望で発足した)との記事が掲載された。米国のNIH(National Institute of Health=米国立衛生研究所) の予算規模は約3.6兆円に対し、日本版NIH(日本医療研究開発機構)の予算は約1400億円である。予算に対して、目標(野望)大きいと揶揄やゆされている。

 政権基盤の強いときにしか、思い切った改革はできない。それは、中曽根内閣の「国鉄民営化」、小泉内閣の「郵政民営化」などに象徴される。これまでの医療・医学に関する研究予算は、文部科学省、厚生労働省、経済産業省に分散されていた。各省庁の方針(というよりも利権)の壁によって、基礎研究から臨床応用へという道筋が途切れていることが、医薬品の輸入超過年間約2兆円という惨憺さんたんたる現状を招いたことを指摘してきたが、このレベルの改革と投資では、医療産業が国際競争力を持つことを期待するのは難しい。政治が安定している今ならば、大きな改革の実行が可能かと期待していただけに、その内容は物足りない。

 米国が10トンの岩を3万6000人体制で動かし、転がり始めている状況で、日本が1400人体制で動かして、米国に追いつくことなどありえない。差はますます広がるだけである。私も経験があるが、大きなプロジェクトを霞が関の役所に提案しても、「大事な研究とは思いますが、予算が限られていますので、とりあえず様子を見るために10分の1程度の予算で頑張ってください」という返答が多い。「断るとうるさいし、失敗の責任も取りたくないので、この程度でお茶を濁しておこう」という本音がにじみ出ている。

 「1000億円を10年投資して水泡に帰する」ことを望まないのであれば、「2兆円を10年間投資して、10年後に100兆円の富を生み出す」ような政治的決断をする必要があると思う。そうでなければ、医療産業を日本の経済活性化の柱にすることは実現しない。製薬企業や治療用医療機器の研究基盤・産業基盤は、欧米に比して大きく遅れている。基盤を整備することなく、予算を中途半端につぎ込んでも、砂漠に水をくようなものである。

 と批判をする文章を書きながらも、Science誌の原稿を読んで、私は日本人として悔しくてたまらない。日本の本気度を見透かされているのである。戦後70年の節目の年に「日本は本気だ。ぜひ、日本と協力体勢を構築したい」と、海外から一目置かれ、期待されるような大胆な政策を実行してほしいと切に願っている。新しい日本を医療分野でも示すことが必要だ。


(この連載は今回で終ります。ご愛読ありがとうございました)

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コラム_中村祐輔の「これでいいのか!日本の医療」_アイコン80px

中村 祐輔(なかむら ゆうすけ)

1977年大阪大学医学部卒業、大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、1984-1989年ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。1989-1994年(財)癌研究会癌研究所生化学部長。1994年東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。1995-2011年同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005-2010年理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長を経て、2012年4月よりシカゴ大学医学部内科・外科教授 兼 個別化医療センター副センター長。

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