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茂木健一郎のILOVE脳

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「吉田のティーチャー」の思い出

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 というわけで、イタリア旅行でおいしいものを食べた報いで、「恐怖のリバウンド」をした私。

 見事、BMI=25以上の「デブ」に返り咲きを果たしたわけですが、せっかくつかんだ、このデブのチャンピオン・ベルト、末永く防衛するぞ!

 何がなんでも、守りぬくぞ!


 って、そんなわけないじゃないですか。

 むしろ、一日も早く、「デブ」の汚名を返上して、また元通りのスリムな身体(笑)になりたい私。

 ええい、こうなったら、BMI=25に当たる、73キロなんてケチなことは言わないで、さらに下、つまり、70キロとか、68キロとかも目指してしまうんだ!

 というのが、このところの野望なのです。

 体重を減らす、ということは、ある意味では「タイムトラベル」するということ。

 スリムだった昔の自分の体形に、戻っていくということであります。


 このところ、昔の自分の写真を時々このコラムでご紹介しているわけですが、今回は、なんと、中学校の修学旅行!の時の写真をお持ちしました(笑)。

写真1

 仲間たちと、新幹線の中で楽しんでいる、その様子が、写真1であります。

 自分で言うのもなんですが、こまっしゃくれたガキですな(笑)。


 突然ですが、中学というと、思い出すのは2年生の時に英語を習っていた「吉田のティーチャー」であります。

 「吉田のティーチャー」さんは、もちろん、正式には「吉田先生」とお呼びしなければならないのですが、英語を教えていらしたのと、そのお人柄から、「吉田のティーチャー」と呼ばれて生徒たちから慕われていたわけであります。

 この吉田のティーチャーが、ビートルズの大ファン。

 英語の時間に、とにかく滅多やたらと、ビートルズの曲を歌わせるのです。

 もちろん、教科書の範囲をちゃんとやってからの話ですが、自分でギターを弾きながら、「さあ、歌ってみよう!」と、『イエスタデー』とか、『レット・イット・ビー』とか、『ヘイ・ジュード』などの名曲を歌わせるのです。


生徒全員あぜんと

 今思えば、英語の曲を歌うということは、英語のリズムを体感したり、発音を身につけたり、何よりも英語のフレーズを暗記したりする上で、かなりの効果があったのではないでしょうか。

 もっとも、当時は、吉田のティーチャーにそれほど深い哲学があるとは、私たち中学生には思えず、ただ、「ああ、吉田のティーチャーが、また、自分の好きなビートルズの曲を歌わせている!」と思いながらも、案外喜んで歌っていたのです。

 忘れもしません。その吉田のティーチャーが、夏休み明けの最初の授業で、目をキラキラさせながら、こう言ったのです。

 「君たちさ、ぼく、インド行ってきたんだけどさ、女の人がみな、美人なんだよね~!」

 そうなのかっ!

 吉田のティーチャーがインドで見たのは、美人たちの群れだったのかっ!

 私たちは、静かな衝撃を受けつつ、吉田のティーチャーの話に聞き入りました。


 今考えてみれば、吉田のティーチャーがインドに行ったのは、ビートルズの影響だった可能性が大。

 ビートルズは、インドに行って音楽性が変わったというのは有名な事実。吉田のティーチャーは、その「虹の橋」を追ってインドに行ったというのが真相なのでしょう。


 しかし、中学生の私たちは、そんな深い考えにも思い至らず、とにかく、「ああ、吉田のティーチャーはインドに行って、素敵すてきな体験をしたんだなあ、その感動を、私たちに語ってくれているんだなあ」としか思わなかったのです。

 とにかく、インドに行って、きれいな女性にたくさん出会った吉田のティーチャーは、この授業から間もなく、私たち生徒全員を唖然あぜんとさせる行動に出たのです。

 そう、突然、学校を辞めてしまったのです!

 みんなに、さよならも言わずに!


 しばらくって、吉田のティーチャー(もう、教師を辞めたのですから、「ティーチャー」ではないわけですが)が、旅行会社に転職して、ツアー旅行の添乗員をしているらしい、といううわさが聞こえてきました。

 夏休みに行ったインドの、特に美人のインパクトが、あまりにも強かったのでしょう。

 私たちにビートルズの楽曲を歌う楽しさを教えてくれた吉田のティーチャーは、旅する人になってしまったのです。


ビートルズで筋トレ

 さてさて、その、吉田のティーチャーの授業がきっかけで、ビートルズ好きになった私。

 最近では、減量に向けた筋トレに、吉田のティーチャーの教えをかしています!


 一時期、この連載で、腕立て200回、腹筋200回の連続日数記録に挑んでいたことを、記憶されている方もいらっしゃるでしょう。

 あれは、やめました。その習慣は、すっかり廃れました。

 何しろ、ただでさえ退屈な筋トレ。回数だけを頼りに、1回、2回、・・・とやっていると、段々いやになってくるのです。

 最近では、スマートフォンでビートルズの楽曲をかけ、その楽曲が流れている間に、腕立てや腹筋をやる、というスタイルに変わっているのであります。

 もちろん、回数は数えません。

 リズムに乗って、即興の仕草しぐさなど交えながら、腕立て、腹筋をして、デブ返上を目指しているわけです。

 ビートルズの楽曲の中でも、例えば、『ゲット・バック』とか、『サムシング』とかが、筋トレお供のお気に入りです。


 そんな風に床と戦っていると、遠いあの日、中学の教室で、私たちにビートルズの楽曲を教えてくれていた吉田のティーチャーの面影が、ふとよぎるのです。

 素敵な先生だったな、吉田のティーチャー。

 今頃、何をしているのかな。

 そして、本当にスリムだった中学生の私を思い出し、ああ、我が体形よ、願わくばあの頃に戻れと、おそらくはかなわない願いを、ビートルズの楽曲に重ねて思うのです。

 さらば、青春。

 そして、よみがえれ、青春!!!

 しばらくは、ビートルズの音楽とともに、腕立て、腹筋を続けることといたします。

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茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)
脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。

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