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ミトコンドリア病の発症予防…卵子の提供受け核移植

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 国内で、胎児や受精卵の新たな検査について注目が集まる中、英国で今年2月、重い遺伝病を持つ女性を対象に、卵子や受精卵の核を健康な女性の卵子や受精卵に移植する技術の臨床応用が世界で初めて認められた。この核移植は、どのような技術なのだろうか。

 今回、対象となるのは、「ミトコンドリア病」という重い遺伝病だ。英国では、この病気の予防を目的に、卵子などの核移植の研究が進められてきた。

 細胞は、主に核と細胞質で成り立っている。核には体の各部を作る設計図となる遺伝情報が詰まり、細胞質にはエネルギーを作るミトコンドリアがある。

 核移植は、正常なミトコンドリアを持つ女性から卵子の提供を受けて行う。提供卵子から核を除き、ミトコンドリア病が子に遺伝するリスクを持つ女性の卵子の核を移植する。父親となる男性の精子と、それぞれの卵子で受精卵を作った後で核を移植する方法もある。

 患者などの訴えを受け、英国議会は今年2月、生殖医療に関する法律を改正。来年にもこの技術で赤ちゃんが生まれるとみられている。

 だが、日本ではまだ研究段階。卵子の核移植の研究を行うはなぶさウィメンズクリニック(神戸市)研究開発部主任の大月純子さんは「移植で卵子や受精卵がダメージを受ける恐れがある。ミトコンドリア病の予防につながる可能性はあるが、子どもへの安全性はまだ確立されていない」と指摘する。

 この技術を不妊治療に生かそうと基礎研究を行う専門家もいる。セントマザー産婦人科医院(北九州市)院長の田中温さんは、不妊治療を受ける複数の患者の協力を得て、質の悪い卵子から核を取り出し、核を抜き取った健康な卵子に移植した。すると、核移植を行わない場合に比べ、成熟した受精卵を多く作れた。実際の治療に使う段階ではないが、田中さんは「加齢とともに卵子の質は低下し、ミトコンドリアの働きも悪くなる。核移植は、有効な不妊治療として期待できる」と説明する。

 ただ、日本での臨床応用には倫理的な課題を指摘する声もある。ミトコンドリアも独自のDNAを持つため、子どもは父母と卵子提供者の3人の遺伝情報を受け継ぐことになる。英国でもキリスト教会などが慎重な対応を求め、議論になった。北海道大教授(生命倫理学)の石井哲也さんは「日本には法規制がなく、倫理面での議論が不十分なまま、この技術が広がっていかないか心配だ」と話す。

意識障害、筋力低下引き起こす

 ミトコンドリアは、一つの細胞内に数百個あり、エネルギーを作り出している。この働きが低下して発症する病気の総称がミトコンドリア病だ。多くのエネルギーを必要とする脳や筋肉などに症状が出やすく、けいれんや意識障害、全身の筋力低下、心筋症などを引き起こす。難聴や糖尿病の原因になることもある。国の指定難病になっている。

 国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市)メディカル・ゲノムセンター長の後藤雄一さんは「症状が多彩で、軽い場合もあれば重い場合もあり、診断が難しい。はっきりしないが国内に2000人はいるとみられる」と説明する。

 ミトコンドリア病は、遺伝子の変化で起こる。多くは遺伝によるものだが、突然変異と考えられる例もある。薬剤の使用で発症する場合もある。

 治療は、対症療法が中心で、けいれんがあれば、抗けいれん薬、糖尿病にはインスリン製剤を使うという具合だ。ビタミンなどを補充してミトコンドリアの機能の改善を図る治療もあるが、まだ十分な有効性が確認されていない。

 ミトコンドリア病の研究を行う久留米大病院(福岡県久留米市)小児科教授の古賀靖敏さんは「病気そのものの解明をさらに進め、治療薬の開発につなげたい」と話している。(利根川昌紀)

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