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松本俊彦さん 「自傷」患者への助言(1)なぜ自分を傷つける?

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 手首を刃物で切るリストカットなど、自分を故意に傷つける「自傷」。中高生の1割が経験し、エスカレートすると自殺の危険性も高めてしまう。一人で苦しむ当事者に向けて、語りかけるように書いた本「自分を傷つけずにはいられない―自傷から回復するためのヒント」(講談社)を出版した精神科医、松本俊彦さん(47)に話を聞いた。(岩永直子)

松本俊彦(まつもと・としひこ)さん

 国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長、自殺予防総合対策センター副センター長。1993年、佐賀医大卒。「自傷行為の理解と援助」(日本評論社)、「アルコールとうつ・自殺―『死のトライアングル』を防ぐために」(岩波書店)など著書多数。



東京都小平市の国立精神・神経医療研究センターで

 ――自傷とは、どのような行為ですか。

 「刃物で皮膚を切る、たばこで自分にやけどをさせる、体をかむ、とがったもので皮膚を突き刺す、頭を壁にぶつけるなど様々な方法で自分を傷つける行為です。自殺とは違い、このぐらいなら死なないだろうと予測しながら、軽く傷つけるのが特徴です。同時に、アルコールや薬物への依存、摂食障害も抱えていることが多いです」


 ――なぜ、そんなことをしてしまうのでしょうか。

 「自傷する理由として、リストカット経験のある若者の6割が怒りや恐怖、緊張、絶望などの不快感情を和らげるためと答えています。死にたいぐらいつらい今を何とか生き延びるためという人もいます。つまり、自傷には心の痛みに対する『鎮痛効果』があり、それを求めて、繰り返される傾向があります。ただ、長期化すると効果が薄れ、エスカレートして自殺につながる可能性も高まります」


 ――誤解もありますね。

 「周囲や本人だけでなく、精神科医でさえ、『人の関心や注目を集めたいからだ』と言う人が多いのですが、これは間違いです。96%の人がひとりぼっちの状況で自傷し、それを周囲に隠しています。つまり、アピールとはむしろ正反対で、誰の助けも借りずに自分でつらい気持ちに対処しなくてはいけないと思い込んでいる。それなのに、当事者さえも、『私は弱いから切ってしまうんだ』『周囲の気を引こうとしているのかもしれない』と言うのですが、実際は誰にも見えないところで切っているし、気を引くにはとてもささやかな方法で切っています。多くの人が思っている誤解は、本人もどこかでそう思うようになり、ますます自分は駄目なのだという駄目出しの悪循環につながっていると思います」


 ――自分で対処しないといけないと思うのはどうしてでしょうね。

 「結局、むかついた時にその場で、『今の言葉はむかついたよ。どうしてそんなこと言うんだよ』と言える人は、大爆発しないで済むのですが、自傷する人は我慢して、我慢して、我慢して、それで限界を超えると大爆発となってしまいやすいのです。それで大爆発してギャーギャー言うと迷惑な存在となり、誰も本人のメッセージを受け取ろうとしなくなる。有効でないコミュニケーションを仕掛けちゃうのですね。そういう意味で、僕はもっと愚痴っぽくなれ、愚痴をたくさんこぼしている人ほど長生きするんだと患者さんによく言うのです。それに自分は弱くて駄目だと思い込んじゃっているから、強くならなくちゃ駄目だと思って、つらい状況や人間関係にいつもとどまろうとする傾向があります。ですからつらいことから逃げろ、愚痴を言え、この2点が大事だと思って伝えています」


 ――今回、当事者に向けて書こうと思われたのはなぜですか。

 「これまで自傷について書いた本は、専門家や支援者向けのものだったのですが、結構、当事者が読んで、非常に助かったという手紙をくれたりするのですよ。でも、難しい専門書を読める人ばかりではないし、自傷ってものすごく誤解されている。精神科医療の専門家ですら、根本的な誤解をしていて、受診した当事者がかえって傷ついているということもよく聞きます。海外の研究でも言われているのですが、多くの人は精神科を受診した経験があり、失望しているのですね。私のところに来る人も、複数の医者に会った後で来る人が多いのです。そんな人たちに、直接届くように書けば、救われる人が増えるのではないかと願って当事者向けの本を書きました」


 ――そもそも、なぜ自傷するようになるのでしょう。ほかの手段ではなく、自傷を選ぶ人の傾向はあるのでしょうか。

 「多くの要因が絡み合っています。遠い要因としては、自分に対する虐待や、家庭内暴力などで誰かが暴力を受けているのを見て、間接的に暴力を受けていたということもあります。やはり、暴力の持つパワーをそこで学習してしまっていますから。親の離婚や親のアルコール・薬物問題など不適切な養育環境が背景にあることもあります。それから、生まれつき奇形があったり、病気がちであったりして、自身のイメージが悪くなってしまうことも遠因として挙げられます。ただし、そういう人たちが全員やるわけではありません。では、近くにどういう原因があるかというと、一つは、周りに自傷する人がいて、そういう方法を学んでしまうということがあります。また、インターネットなどで、自傷に肯定的なサイトを楽しんでいる人は自傷しやすくなりますし、今現在、親やパートナー、親友ら大事な人と葛藤関係にあったりするとしやすくなります。大事な関係なのに、本当のことを相手に言えず、支配・被支配の関係にある場合ですね。そういう関係性があると、自己評価が低いために、相手に自己主張してしまったら見捨てられるのではないかという気持ちが常にある。言葉をのみ込んでしまうけれども、結局、やり場のない気持ちが残り、自傷で一時しのぎをしようとする。他には、自分が自分であるという感覚が一時的に失われ、その間の記憶が抜け落ちてしまったりする『解離性障害』を抱えている人、それから、お酒や薬物を乱用していてしばしば酩酊めいてい状態になっている人は、自分の衝動をうまくコントロールできなくなりやすく、自傷をしやすいと言えます。ともかく、自傷という行為の背景には、このようなたくさんの要因が絡み合っているのです」


 ――最初は、誰かがやっているのを実際に見たり、ネット上で見たりして始めることが多いのですか。

 「確かに、そのように誰かが自傷をしている場面を目撃し、その影響を受けて自傷を始める人もいます。たとえば単なる好奇心から、あるいは、『そうやると気持ちが楽になるなら』と期待して、自傷を模倣するわけです。しかし、それをきっかけにして自傷にハマってしまう人は確実にいます。それから、まったく他人の影響なし、それこそ『リストカット』なんて言葉さえ知らないうちに、何となく自分を傷つけていたという人もいます。そういう子の場合、小学生の頃から、自傷の萌芽的な行動をしていることもあります。たとえば、学校の授業で算数の問題ができなくて怒られたりすると、自分を罰するために、あるいは、自分に活を入れるために、シャープペンシルとかコンパスとかでちくちくやっていたりする。これも一種の自傷です。こうしたことを繰り返しながら、中学生くらいになる頃には、『刃物で切る』という方法へとエスカレートすることもあります。特に虐待を受けている子は、無意識のうちに始めることがあります」

続く

 
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