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高度医療、安全置き去り…特定病院 取り消しへ

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群馬大と東京女子医大…死亡例 共有怠る

特定機能病院の承認取り消しなどについて審議が行われた社会保障審議会医療分科会(30日午後、厚労省で)=清水敏明撮影

 医療事故が起きた群馬大病院(前橋市)と東京女子医大病院(東京都新宿区)の「特定機能病院」の承認が取り消されることが確実となった。厚生労働省の医療分科会が30日、病院の安全管理体制に不備があり、高度な医療を任せられないと判断した。重大な事故が見過ごされてきた背景には、国による承認や審査の形骸化もあり、制度そのものの見直しが求められる。(社会部 小田克朗、医療部 高梨ゆき子)

審査形骸化、国の責任問う声

 「医療が高度で複雑になる中で基本が忘れられてしまっている。問題の根は深い」。承認取り消しの是非を検討してきた社会保障審議会医療分科会長の楠岡英雄・国立病院機構大阪医療センター院長は30日、険しい表情で記者団に語った。


 特定機能病院は、高度な医療が提供できる施設と人員を整え、安全性にも細心の注意を払っているとして、国が「お墨付き」を与えた病院だ。しかし、今回取り消し相当とされた二つの病院では、初歩的な情報共有を怠り、安全に対する組織の危機感も薄かった。

 同じ執刀医が行った腹腔ふくくう鏡手術で8人が死亡した群馬大病院では、最初の患者が亡くなってから3年以上、医療スタッフは病院長ら病院幹部らに死亡例が続いているという事実そのものを報告していなかった。

 東京女子医大病院でも、院内で2013年までの6年間に鎮静剤「プロポフォール」を投与された小児の死亡が相次いでいたのに、その情報が共有されず、別の部署で14年に同じ薬の大量投与で男児の死亡事故が起きた。02年にも別の問題で承認を取り消された同病院は、再承認された07年、院長に権限を集中し事故報告を徹底する改善策を掲げながら実現せず、新たな事故につながった。

 分科会委員の一人は「両病院とも不祥事に真摯しんしに対応する姿勢が見えなかった」とあきれる。

 承認取り消しの影響は大きい。05年に取り消された東京医科大病院(東京都新宿区)では入院患者が約1割減り、収入も大きく落ち込んだ。先進医療が認められにくくなったり、他病院との共同研究から外されたりしたため、最先端の治療や研究を望む医師らの士気は下がり、病院への就職希望者も減ったという。

 同病院では、死亡症例をすべて安全管理部門で集約してチェックするなどの改善を進め、3年半後の09年に再承認を受けた。三木保・安全管理室長は「失った信頼を取り戻すには、大変な苦労が必要だ」と語る。

 国の責任を問う声もある。

 厚労省によると、特定機能病院の承認時には安全管理体制が整っているかどうか現地調査を行い、その後も年1回の立ち入り検査を実施することになっている。しかし、ある特定機能病院の医療安全担当者は「担当部門の活動状況など外形的なことを見るだけで、診療の実態には踏み込まない」と審査の形骸化を指摘する。

 両病院は、地域のがん治療の中心となる「がん診療連携拠点病院」にも指定されている。群馬大病院は、9倍の競争率を勝ち抜き、適切な臨床研究をリードする「臨床研究中核病院」にも選ばれた。その度に、安全管理体制が審査されたはずだが、現場の実情は見過ごされてきた。

 02年に東京女子医大病院が承認を取り消される理由となった医療事故で次女(当時12歳)を亡くした平柳利明さん(64)は「再承認の際に国が厳しく審査していれば、今回の事故は起きなかったはずだ。立ち入り検査の回数を増やしたり、すべての死亡事例の検証を病院に求めるなど、実効性のある対策が必要だ」と話している。


執刀医の刑事責任焦点

 今後は医療事故にかかわった医師らの責任が問われるかどうかが焦点となる。

 2002年には東京慈恵会医科大付属青戸病院(東京都葛飾区)で、群馬大病院と同じ腹腔鏡手術で患者の死亡事故が起き、執刀医ら3医師が業務上過失致死罪で有罪判決を受けた。技術や経験が不足しているのに難しい手術を行ったことが理由だった。

 その後、大野病院(福島県大熊町)の産科医が起訴された事件(04年)など医療事故を巡る裁判で無罪判決が相次ぎ、捜査当局は、診療と死亡との因果関係の立証が困難だとして医師らの刑事責任追及に慎重な姿勢に転じている。

 ただ、群馬大病院では多数の患者が死亡しただけでなく、事故調査で、体調が悪く手術を行うこと自体が望ましくない患者を手術したり、肝不全が疑われる患者を退院させたりしたケースが発覚。執刀医が診断書に虚偽記載した疑いも浮上した。遺族の弁護団は業務上過失致死や虚偽有印公文書作成容疑で執刀医らの刑事告発を検討している。

 一方、東京女子医大病院で鎮静剤の投与後に死亡した12人のうち、14年に死亡した2歳男児のケースについて、病院の調査委員会は鎮静剤の大量投与の副作用が死因だと結論付けた。病院側から届け出を受けた警視庁が業務上過失致死容疑で同病院を捜索するなど立件に向けて捜査している。

 刑事責任とは別に、厚労省は、医師免許取り消しや業務停止などの行政処分を科すかどうかを検討する。


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