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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

コラム

性善説が通用しない? 医療の現実

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 今日は、「指定医20人取り消し11人は虚偽申請…精神科」という記事に関して書きます。

 聖マリアンナ医科大病院の医師らが、厚生労働省が定める「精神保健指定医」の資格を不正取得したとして、同省は15日、精神科医20人について指定医の資格取り消しを決めたそうです。このうち11人は、実際には治療に関与していない患者を診察したと偽って申請していました。残りの9人は彼らを指導した上司で、監督責任があるとしての取り消しだそうです。精神保健指定医は、重い精神障害を抱えた患者を強制的に入院させるかどうかを判断できる医師の資格です。「強制的に」という文言が大切で、本人の意思に反して入院を強制できます。そんな強制力を持ち、厚生労働省が定める「精神保健指定医」が不正取得されたことが大問題なのです。本人が入院をしたくないと主張しても、その意思に反してまでも入院させられるということです。人権侵害にもなる可能性がある医療行為なので、国が特別な資格を要求していると言うことです。


専門医や指導医 信用できる?

 ちまたには、医療関係の学会がたくさんあり、研究会があり、いろいろな団体があります。それぞれの組織が、専門医や指導医、または資格などを認定していることがあります。それらの組織がどこまで公正に認定しているかは、実はよくわかりません。しかし、仲良しサークルが、勝手に仲良しサークルのコアメンバーになにがしかの資格を認定しても今回のような大問題にはなりません。その資格によって、患者が強制されることがないからです。しかし、仲良しサークル的な学会の専門医や指導医では、それを正当なものと誤解してしまう一般国民が不幸になることがあります。怪しげな医療に関するHPに、僕も知らないような○○学会の会長などといった宣伝文句も散見されます。少なくとも学会の専門医は十分に世間の評価に耐えうるものであるべきだとの議論が昔からありました。そこで日本専門医制評価・認定機構という第三者機関が、それぞれの学会主導で行われていた専門医の認定制度を根本から改めようとしています。


なぜか専門医より多い「精神保健指定医」

 専門医や指導医なども不正取得されては困るのですが、「精神保健指定医」の資格はことさら重大問題なのです。ある意味、人権侵害を行える資格なのですから。精神保健福祉法という法律に基づいて、「強制力」を有する資格なのです。読売新聞の社説「 精神保健指定医 不正の常態化は見過ごせない」によると、精神保健指定医は全国で約1万4630人いると言われています。ところが、前述の 日本専門医制評価・認定機構によると、日本精神神経学会の専門医数は1万104人となっています。精神科の専門医数よりも、精神保健指定医の数が多いことに、僕は驚きました。精神科の専門医ではない精神保健指定医が存在するということです。なんだか恐ろしいですね。「強制力」を持つ精神保健指定医が、精神科の専門医ではないのでしょうか。

 そして、精神保健指定医の資格取得はどれほど難しいのでしょうか。精神保健指定の資格を得るには、精神科の臨床経験が3年以上、医療経験が5年以上の精神科医が講習を受けて、精神疾患8例のリポートを提出することが要件です。これを満たせば、誰でも取得できるのでしょうか。聖マリアンナ医大では、症例の使い回しが常態化していたそうです。常態化していれば、自分が診ていない症例をリポートにしても悪意は少なくなるのでしょう。そんなこと自体が、医療不信を招きますね。指導医も今回処分されています。それは酷似したリポートの存在を、厚生労働省が知ったからです。その対策としてリポートをデータベース化して、類似のリポートを判別する方法などを考えているようです。しかし、指導医が資格取得を希望する医師に代わってすべてを作成してしまえば、いくらでも同一ではない架空のリポートが誕生しそうです。


最終的には医師のモラルが問われる

 つまりは、医師のモラルにかかっています。世紀の大発見と言われたSTAP細胞で日本中が、世界中が大騒ぎをしました。まさか、医療・科学論文にウソを書く人、「コピペ(コピー&ペースト)」をする人はいないだろうという性善説は通用しなくなりました。同じように、資格申請のリポートをコピペで作成する人はいないだろうという性善説も通用しないのですね。性善説が通用する医療であり続けてもらいたいと願うばかりです。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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