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出生前検査、心のケア課題…「新型」開始2年

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新型出生前検査
 妊婦の血液に含まれる微量の胎児のDNAを分析し、ダウン症など3種類の染色体の病気の可能性を調べる。胎児の病気のリスクが高まる、主に35歳以上の妊婦などが対象で、全国約50施設で受けられる。

新型出生前検査のため、採取された妊婦の血液

 妊婦から採血して、ダウン症など胎児の三つの病気の可能性を調べる新型出生前検査の臨床研究が2013年4月に開始され、2年がたった。約2万人が検査を受けたが、夫婦の精神面のケアは十分とはいえない。医療現場からは、検査対象の拡大を求める声も上がっているが、「命の選別」につながりかねないだけに、慎重な判断が求められる。(医療部 利根川昌紀、中島久美子)

カウンセリング「不十分」…一方的な説明 「意義薄い」

■ 希望者が殺到
 3月下旬のある日、名古屋市立大病院臨床遺伝医療部の待合室に、新型出生前検査を希望する15組の夫婦が次々と訪れた。

 この日、採血した愛知県内の妊婦(35)は「出産予定の病院で新型検査のことを知った。調べられるのに受けずに後悔したくないと思い、受けようと思った」と話す。

 同病院では2年間で2400人以上が検査を受けた。県内だけでなく、長野や静岡、福井、石川などからも希望者が訪れる。同病院産科婦人科の鈴森伸宏准教授は「全国的に当初の予想よりも関心が高い。これ以上の受け入れは難しく、妊婦が近くの医療機関でも相談できるように実施施設を増やすべきだ」と訴える。

■ 「流れ作業のよう」
 新型検査は、採血だけで検査できる簡便さから、約20万円の自己負担にもかかわらず、「安心」を求めて受ける夫婦が増えている。だが、別の出生前検査で思いがけず、胎児の病気がわかり、人工妊娠中絶をした主婦(41)は「罪悪感を引きずり、次の妊娠が怖かった。病気が見つかった場合のことも考え、夫婦で十分話し合ってから受けるべきだ」と話す。

 妊婦らが検査の意義や遺伝性の病気について正しく理解し、結果を落ち着いて受け止められるように支援するのが「遺伝カウンセリング」だ。日本産科婦人科学会は新型検査の指針で実施を義務づけている。

 中絶を経験した主婦は昨年2月、再び妊娠がわかった。悩んだ末に新型検査を受けたが、遺伝カウンセリングでは、すでに知っている技術的な説明が中心で、「命の重みについても考える大切な場のはずなのに、正直、意義は感じられなかった」と話す。

 昨年10月に新型検査を受けた女性会社員(40)も「流れ作業のようだった」と不満を漏らす。事前に必ず夫婦で遺伝カウンセリングを受けるように言われ、海外で働く夫に一時帰国してもらったが、検査内容の確認のみで、10分程度で終了。10組ほどの夫婦が待っており、質問できる雰囲気ではなかった。

 その後、出産予定の病院で、新型検査は検査対象が限られ、多くの重い病気が調べられないことを知った。「新型だから最も良い検査だと思い込んでいた。他の検査について詳しい説明があれば、受けなかったかもしれない」と振り返る。

 出生前検査に詳しい兵庫医大の千代ちよ豪昭ひであき特別 招聘しょうへい教授は「夫婦が検査を受けたい理由や不安を丁寧に聴き、納得いく選択をできるよう支援するのが目的で、一方的に説明するだけでは不十分」と指摘する。

■ 継続支援
 新型検査では、胎児の病気が判明した妊婦の8割以上が中絶を選択している。こうした女性の心のケアをどのように行っていくかも課題だ。ある大学病院では、中絶を決めた妊婦に、3か月後のカウンセリングの予約を入れているが、半数以上は受診しないため、状況がわからないという。

 岩手医大臨床遺伝学科の福島明宗教授は「継続的な支援を行うためには検査前後の遺伝カウンセリングの段階から、もっと信頼関係を築く努力が必要だが、対応できる専門家が足りず、難しいのが現状だ」と話す。

 

対象拡大 意見割れる

 新型出生前検査を実施する共同研究組織の有志は、ダウン症など三つの病気に限られている検査対象を、超音波検査で胎児の病気が疑われた妊婦などに限り、性染色体の病気などにも拡大するよう要望している。

 新型検査で「陰性」であれば、腹部に針を刺し、流産の危険を伴う羊水検査を受ける必要がない。調べる病気を増やせば、より多くの妊婦の負担を減らせる。

 だが、要望が出ている対象には必ずしも重いと言えない病気も含まれており、拡大には慎重な声もある。

 市立秋田総合病院小児科の成田鮎子医師(38)は「性染色体に問題があるだけで、選別の対象になるのはおかしい。結果的に人工妊娠中絶が増えるのではないか」と危惧する。

 成田医師は、性染色体の病気「ターナー症候群」の患者でもある。「低身長や不妊の悩みはあるが、社会生活に支障はなく、『体質』と捉えて前向きに生きている。検査の希望者は、対象となる病気の子どもが成長する過程をよく知る小児科医の助言も聞いてほしい」と訴える。

 一方、将来的には、性別判定などが胎児の治療に役立つ可能性もある。男性ホルモンが過剰に分泌される遺伝性の病気では、胎児が女児とわかれば、妊婦がホルモン剤の服用を続けることで、性器の男性化などを防ぐことができる。

 この病気の女性(29)は「治療に結びつくなら、技術の進展は歓迎」とする一方、「遺伝性の病気への理解が広がらないまま、検査対象が拡大されるのは心配」と複雑な心境を明かす。

 
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