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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

医療とお金(27)妊娠・出産への公的サポート

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 子どもは社会の宝です。日本では、少子化が社会の将来にかかわる大問題になっています。

 妊娠・出産・子育て・教育は、本人まかせ・親まかせにするのではなく、社会的なサポートを手厚く行いたいものです。

 今回は、妊娠・出産にかかわる医療費の助成、保健サービス、所得保障、さらには労働関係について、ひととおり見ておきましょう。とくに労働や休暇に関する権利は、妊産婦の場合、強く保護されています。マタハラ(マタニティー・ハラスメント)など、もってのほかです。


<母子健康手帳>
 妊娠中の状態、出産の経過、子どもの発育、予防接種などを記録します。戦時中の1942年に物資の優先配給などを行うために発行された妊産婦手帳が始まりで、日本で独自に発展したしくみです。いろいろなアドバイスが載っており、各種の母子保健サービスを利用するときにも必要です。

 市町村の窓口(地域によっては保健所・保健センター)に「妊娠届」を提出すると、母子保健法に基づき、国籍・年齢にかかわりなく交付されます。外国語版を発行している自治体もあります。妊娠届は、市町村によって自己申告でよい場合と医療機関の証明書が必要な場合があります。事情があって出産前に届けられなかったときは、出産後に手帳を交付してもらうことができます。


<妊婦健診>
 正常な妊娠・出産の医療費は、公的医療保険の対象外です。妊婦健診(健康診査)については通常、14回分の受診券が、母子健康手帳と合わせて市町村から発行され、一定額までなら無料で健診を受けられます。超音波による画像診断(エコー)や感染症の血液検査もそこに含まれていますが、保険外なので医療機関によって料金の設定や画像診断の回数にかなりの差があり、自己負担が生じることがあります。自治体によっては受診できる医療機関の範囲が決まっていますが、指定外の産婦人科にかかったときも、後から払い戻しを受けられることが多いようです。


<助産師などによる指導>
 初産になる人や、病気や障害のある妊産婦などには、市町村の助産師や保健師による訪問指導が行われます。妊婦教室も開催されます。もちろん、自分から相談することもできます。


<妊娠高血圧症候群などの療養援護費>
 妊娠に伴って高血圧・むくみ・たんぱく病などの症状が出て、危険を伴うことがあります(かつては妊娠中毒症と呼ばれました)。糖尿病・貧血・心臓病を抱えている妊婦もいます。出産時に大きな出血をすることもあります。そうした場合に、医療費の自己負担分を後から給付する制度があります。申請窓口は保健所です。ただし、所得の少ない世帯で7日以上入院した場合に限る、といった厳しい条件がついており、支給範囲の拡大が望まれます。


<不妊治療費の助成>
 不妊治療は、公的医療保険がきかず、高額の費用がかかることから、厚生労働省が補助金を出して自治体による公費助成が行われています。ほかの方法では妊娠の見込みが極めて少ない場合の体外受精または顕微授精が対象で、法律上の夫婦に限り、夫婦合算の所得が730万円以下という条件がついています。1回15万円を上限に、年度あたり2回(初年度は3回)まで、最大で通算5年間、計10回分までの助成が行われてきました。

 しかし年齢が上がると妊娠しにくいことなどにより、2014年度から助成が縮小されました。新規の助成は、治療開始時に妻が40歳未満の場合、43歳になるまでに通算6回以内となりました(年度内の回数や通算期間の制限は廃止)。16年度からは、40歳以上の場合は43歳になるまでに通算3回以内、43歳以上の不妊治療は助成対象外になります。

 申請の窓口は、政令市、中核市、(政令市でも中核市でもない地域は)都道府県です。


<出産育児一時金>
 公的医療保険から、子ども1人につき、39万円に産科医療補償制度の掛け金3万円を上乗せした計42万円が通常、支給されます。出産費用は、保険の運営者から医療機関への直接払いにすることができます。加入先の公的医療保険の窓口に申請します。扶養家族でも、国民健康保険でも、支給されます。何らかの事情で申請できなかったときでも、産後2年以内なら申請できます。国保料を滞納して保険証の代わりに資格証明書が交付されている場合でも、この一時金は支給されます。


<出産手当金>
 勤め人の健康保険(健保組合、協会けんぽ)、共済組合、船員保険の加入者本人が、出産のために仕事を休んで、給料が出ないか、ある程度以上減った場合に受け取れます。出産予定日を含めた産前42日間(多胎妊娠は98日間)と、出産の翌日から56日間について、健康保険では欠勤1日あたり、標準報酬日額の3分の2が支給されます。給料が出ていてもそれより少ない場合は差額がもらえます。加入先の健康保険や共済組合に申請します。出産が予定日より遅れたときは、産前の支給期間が延長されます。

 ただし、扶養家族はこの制度の対象外。市町村の国保では制度の実施が任意なので、ほとんど設けられていません。国保に加入している非正規の女性労働者は大勢いるのに、全く何も出ないのは、アンバランスすぎるのではないでしょうか。


<就業制限>
 もともと女性については、重い物を扱う業務や、有害物の発散する場所の業務に就かせることが労働基準法で禁止されています。妊産婦(妊娠中または産後1年未満の女性)の場合は、身体に著しい振動を与える機械を扱う業務が禁止されます。ボイラーの扱い、土木建築用機械の運転なども、妊娠中は禁止され、産後1年未満は本人の意向によって拒否できます。

 また、妊娠中の女性が、ふだんより軽易な仕事への配置転換を求めたら、使用者は応じないといけません(女性が管理職の場合を含む)。


<時間外労働、休日労働、深夜労働の制限>
 妊産婦(妊娠中または産後1年未満の女性)は、本人が意向を伝えておけば、時間外労働、休日労働、深夜労働を拒否できます(労働基準法。公務員も対象)。変形労働時間が適用されている場合も、1日または1週間の法定労働時間を超える労働を拒否できます。管理職や、秘書など機密を扱う職種には、時間外労働・休日労働の制限が適用されませんが、深夜業は拒否できます。


<産前産後休暇>
 労働基準法の規定では、出産予定日の6週間前(多胎妊娠は14週間前)から、女性が求めれば仕事を休むことができます。女性の意向に反して使用者が働かせることはできません。出産が予定日より遅れたときは、産前の休暇期間が延長されます。

 産後は8週間、休めます。その間は、女性の意向にかかわらず、働かせることができません。ただし、産後6週間が過ぎて、女性側が働きたいと求め、医師が支障ないと認めた業務には就くことができます。出産には、妊娠4か月以降の流産、早産、死産、中絶を含みます。


<健診、つわりも休める>
 男女雇用機会均等法は、妊娠中や産後の女性が保健指導、健診を受けるのに必要な時間を確保できるようにすることを事業主に義務づけています。保健指導や健診での指導内容を守れるよう、事業主が勤務時間の変更や勤務の軽減などの措置を講じないといけません。ラッシュを避ける時差出勤、休憩の回数や時間を増やすといったことも含まれます。派遣労働者の場合は、派遣先の事業主が配慮する必要があります。

 妊婦健診、赤ちゃんの健診、保健師の指導の日のほか、つわりがひどい場合も、「つわりがひどければ休むように指導された」ということで、休んだり早退したりしてよいわけです。ただし、休んだ日について事業主が賃金を支払う義務までは定められていません。


<解雇の制限、不利益な扱いの禁止>
 労働基準法では、産前産後の休暇中、およびその後30日間は、女性を解雇できません(産前の期間に女性側の意向で現実に休んでいない場合は、この規定による解雇制限はない)。

 また男女雇用機会均等法は、結婚・妊娠・出産で退職するルールを定めることや、結婚を理由にした解雇を禁止しています。妊娠、出産、産前産後休暇の請求などを理由に不利益な取り扱いをすること禁止しており、妊娠中や産後1年未満の女性の解雇は無効としています。派遣先でも同様です。ただし事業主が、そうした理由による解雇ではないことを証明した場合は別です。

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原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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