中村祐輔の「これでいいのか!日本の医療」
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はるか先を行く米国…日米の科学教育格差
先日、目の前にあるシカゴ科学博物館に行ってきた。写真は我が家からの博物館の眺めである。
巨大な博物館であり、その中に全長約76メートルを誇る第2次世界大戦のドイツ軍の潜水艦U-505が展示されている。1944年6月4日に米軍の攻撃を受けて降伏し、米国に持ち帰られたものである。今年は第2次世界大戦終結から70周年にもあたり、映画「史上最大の作戦」で有名なノルマンディー上陸作戦の映画「D-day」も放映されている。昭和が続いていれば、今年は昭和90年に当たるので、昭和の前半に生まれた私には本当に、昭和は遠くなりにけりと感ずる。
といっても、これが今日の話題ではない。この中の博物館で見た「ゲノム」や「遺伝学」に関する展示の話を今回は紹介したい。この中では、染色体から、遺伝子、ゲノム、クローン動物、遺伝子組み換え植物、遺伝子診断、DNA鑑定、遺伝子治療、デザイナーベイビーまで、大きな展示スペースが割かれている。そこでは、大人だけでなく、小学生くらいの子供まで、パネルやビデオを熱心に見ていた。
目が緑色に光るカエルや目が白いショジョウバエなどの実物が展示されており。遺伝子操作や遺伝子異常の説明がなされている。遺伝性疾患の話も詳しく説明されている。ゲノム研究が、人の生活にどのように影響するかを語るコーナーでは、知り合いの研究者たちがビデオに登場していた。
フランシス・コリンズ米国立衛生研究所長、エリック・ランダー米国マサチューセッツ工科大学ブロード研究所教授、そして、メイヨークリニックのディック・ワイシェンバウム教授らだ。どう見ても、今よりは15歳以上若々しい顔貌であることから、ゲノム研究について10年以上は展示されているものと考えられる。しかし、クローンマウスのコーナーでハワイ大学の「Yanagimachi」教授(STAP細胞で有名になった若山教授の師匠)の名前が、「Yanagamachi」になっていたのは少し寂しかった。
新技術がもたらす利益と不利益の熟考を
科学の進歩とともに、健康・医療についてわれわれが知っておかねばならないこと、どうすべきか考えなければならないことが増えてくる。遺伝子治療というだけで狂信的に反対する声はほとんどなくなったが、20年ほど前は感情的な議論が前面に出て大変だった。
脳死移植も、感情的議論がそれらを必要としている患者さんたちの声を
新しい技術がわれわれにもたらす利益と不利益を冷静に話し合わなければならないが、この冷静にということが日本ではなかなかできない。政治でもそうだが、反対する人は少数でも、声が大きいとたくさんの人が反対しているように聞こえてしまう。意図的にそれを利用するメディアも少なくない。医療の進歩にも、この意図的な作為が妨げになっている。
遺伝子組み換え食物の議論でもそうだが、すでに多くの人が遺伝子組み換え大豆から作られた豆腐を口にしているはずだ。今、この瞬間でも、飢えによって命を落としている人たちがたくさんいる。想像たくましく「遺伝子組み換え食物を食べると化け物ができる」といった極論を述べていた人もいた。しかし、地球上の人口が増え続けている今、日本もいつ食料不足に襲われるかわからない、そんな危険性も想定した議論が不可欠だ。
そして、遺伝子情報とプライバシー、遺伝子情報と生命の選別など、博物館のパネルは来館者に問いかけている。技術はわれわれのすぐ前に来ているし、母体の血液を利用して、胎児の染色体異常が判定できる時代である。もっとしっかりした科学技術教育をしないと、正しい技術の利用ができない。
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