心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
地下鉄サリン事件から20年…眼に後遺症残る被害者
入園、入学、入社の4月、街路でも通勤電車の中でも張り切った空気が伝わってきます。
ついひと月前は、寒風が身に染みて、病者、高齢者にとっては、春はまだかと焦り、落ち着けない毎日でした。
人々のそうした焦りをあざ笑うかのように、3月には人災、天災が多い印象があります。
今年は、昭和20年3月10日の米軍による東京大空襲から70年、平成7年3月20日は地下鉄サリン事件から20年、平成23年3月11日の東日本大震災から数えてはや4年、いずれも多くの人々が犠牲になり、不幸な物語を積み上げました。
報道機関は、歴史に深く記銘すべきこのおぞましい出来事を風化させてはならじと、今年も特集を組み、隠れていた史実、事実を掘り起こしました。
それを見聞した我々は、その重大性をどれほど深く認識できたのでしょうか。風化させまいとするそうした努力にもかかわらず、報道された時だけは注目したとしても、日常の忙しさに紛れてか、その驚きや嘆息は長くは続かないように思われます。
ですが、私は例外です。今も外来で、当時サリンにさらされた被害者を月に3、4人は診察し、彼らの持つ後遺症や苦悩…無差別テロの悲惨さを見せつけられているからです。
来院する被害者は「眼がかすむ」「眼が疲れる」「眼を開けているのが
しかし、私の専門である神経眼科の視点から見ると、見たい対象の距離に目の位置と、ピントと絞りをうまく合わせられないという、元来ヒトに備わっているべき自動装置が故障していたり、見たいものをうまく追従する眼球運動システムが不調だったりします。眼を自在に開けていられない「眼瞼けいれん」という非常に辛い疾患になっている方も少なくありません。
被害者の約70%は今も何らかの眼の症状を訴えているという結果が発表されていますが、症状は眼やその周辺に表れていても、故障は大脳、ことに知覚認知や思考、記憶、判断などに関わる高次脳に存在していると推定されます。
「高次脳機能障害」という用語は少しずつ一般的になってきたとは思いますが、専門家でも曖昧
高次脳機能を改善させる治療は、まだほとんどありません。被害者の苦しみはなお続くのです。
◇
ご
よろしくお願いいたします。
【関連記事】