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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

「できる」けれど「やっていい」のか…生殖医療の選択肢

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新宿御苑にお花見に行きました

 あっという間に桜が満開になりました。春の花が咲いて、娘はチューリップ、タンポポ、さくらなどの花の名前を覚えて、見つけると教えてくれます。家族で行ったお花見では、桜よりも足元のドングリやスミレの花のほうに興味を持っていました。

日本国内での制度・議論、かなり特殊

 先日、とても面白い本をいただきました。「卵子探しています 世界の不妊・生殖医療現場を訪ねて」(宮下洋一著・小学館)という本です。ジャーナリストである著者がスペイン、フランス、日本、アメリカ、タイ、スウェーデンの6か国で生殖医療を受ける日本人と医療機関を取材したノンフィクション作品です。こちらのブログでは生殖医療や出生前検査、少子化問題について度々取り上げていますが、日本国内での制度や議論が、他の国々と比べるとかなり特殊であることがよく分かりました。

スペックで選ぶ精子バンクビジネスには…

 国内では認められていない第三者による卵子提供を日本人が望んだ場合、タイやアメリカに受けに行くのは伝えられて聞いていましたが、スペインに受けに行く日本人が多いのは意外でした。スペインには多くの外国人が訪れ、卵子提供を受けているとのことです。また、アメリカでは精子バンクがビジネスとして成立し、「優秀な遺伝子」を持った男性しか提供することができないため、提供できる男性は5000人に1人しかいないそうです。

 著者の宮下さんは、卵子提供については容認しているように思われるものの、提供者の学歴や外見などのスペックで精子を選ぶ精子バンクビジネスには違和感を持たれている様子だったことも興味深かったです。

 各国の医療保険制度や生殖医療の公費負担について書かれているのも興味深かったです。日本では不妊は病気ではないとされているため、生殖医療に対して自治体による補助はありますが、健康保険は適用されず国からの補助もありません。しかし、諸外国では、年齢制限を設けて国のお金で生殖医療を受けられるのが普通なのだということも新鮮でした。フランスでは43歳以下の女性が妊娠にいたらないのは「疾病」として捉えられているとのことです。

 また、さらに興味深いのはスウェーデンでは男性の方にも年齢制限が設けられているということです。女性は39歳、男性は54歳までということで、これは子どもにとってベストな環境をということだそうです。かなり「目からウロコ」でした。その他にも、出生前検査、着床前検査、男女産み分け、少子化対策などについて書かれており、発見が多くありました。

「正解」はないが、視野は広く

 外国に目を向けると、日本は倫理というものに縛られて選択肢が少ないように思えてきます。これは悪いことなのでしょうか?

 「できる」と「やっていい」を区別するのが倫理だと思います。世界で行われていることは、技術的には日本でも可能です。生殖医療や出生前検査をどこまで認めるかという問題を、子どもを望む「カップル」のためにどうするのがいいのかという視点でみると、二人が同意すればどこまでも認めることになる。望む人がいるという大義名分でなされているビジネスはどう評価するべきか。また、できるかどうかは別として、おなかに宿る子どもの視点に立ってみればまた別ですし、それらの技術が容認されて希望者が誰でも利用できる社会となった場合に何かひずみが起きないか、というのはまた違った考え方になります(例えば、この本に書かれていたダウン症候群の子どもがほとんど生まれなくなった場合や、誰もが着床前検査で男女を産み分けるようになって男女比にひずみを生じた場合など)。

 視点が変わればベストな選択は変わり、「正解」というものはありませんが、視野が広くて悪いことはないと思います。本書には日本では受けられない生殖医療や出生前検査を求めて日本から外国へ医療を受けに行く方が多数登場します。医療グローバリズムの現代、国内では倫理的に認められていない医療も国が変われば受けることができ、妊婦や生まれた子どもは日本へ帰ってきて同じ社会を生きています。産む、産まない、そして、どこまで頑張るかを自分で納得できるようにするためにも他者の選択を想像するためにも、役に立つ一冊です。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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4件 のコメント

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生殖医療の選択肢も認めてほしい

男女の産み分け希望

一児の母です。生殖医療の選択肢については友人(子供あり・なし共に)との会話でも度々話題にあがります。 片方の性別を育てるともう片方の性別も育てて...

一児の母です。生殖医療の選択肢については友人(子供あり・なし共に)との会話でも度々話題にあがります。
片方の性別を育てるともう片方の性別も育ててみたいと私も思ったりします。
また、周りから次は男ね女ねと言われたり、女の子だったら産みたい、男の子が欲しいなど、
出産は奇跡ですがそういう風に考える人もいます。
希望通りに産んでいたら男女比にひずみを産むかもしれませんが、
希望通りの性別の子供が欲しくて何度もチャレンジする人がいることや、
男だったら女だったら産みたいと考えている人がいることを考えると、、
そうした選択もあってはいいのではないかと思います。

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MECEで考える不妊治療不奏功例の対策

寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受

「不妊治療がうまくいかない50前後のカップルにおける子供の作り方」を某壁で聞かれました。 まずは、身体的な要素と精神的な要素を切り分けて考える必...

「不妊治療がうまくいかない50前後のカップルにおける子供の作り方」を某壁で聞かれました。

まずは、身体的な要素と精神的な要素を切り分けて考える必要があります。
身体的要素で言えば、奥さんの子宮卵巣と旦那の精子の状況ですね。

人工授精で可能であれば、閉経後でも無理ではないとどこかのニュースでありましたし(確率や費用は存じませんが)、人工受精卵を誰かの子宮を借りる代理母出産などの可能性は産婦人科学会などで整理されていくでしょう。
該当者の与件で判断しやすくなっていくと思います。

次に、パートナー片方の精子や卵子のみが有効な場合、心情的にデリケートになってきます。

実際問題、浮気に準ずるわけで、それに関して、人の心はどう作用するか?
「3人目以降の人間」のキャラクターにも大きく左右されるでしょう。
関係性や距離感の話し合いが重要になります。

また、このご時世、養子縁組が必要とされる捨て子は山ほどいそうですね。
養子もそうですが、子供や青少年の教育的な仕事を追うのもいいかもしれませんね。

オシム・チルドレンなどという流行語もありましたが、遺伝子だけではなく、能力や思いを残すのもまた「子づくり」だと思います。
遺伝子は残っても、他が伝わらないパターンもありますしね。

いずれにせよ、手段は一様ではないということなので、焦らず、ゆっくりと、知識を蓄えて判断するしかないですね。

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少子化対策と絡めて

Dama

現在の日本の制度では、いわゆる「命の選択」は出来ない事になっている。 普通に妊娠して子を授かっても同条件なので、別段 このままでいいのではないか...

現在の日本の制度では、いわゆる「命の選択」は出来ない事になっている。 普通に妊娠して子を授かっても同条件なので、別段 このままでいいのではないか?
ところが人工授精等で子を授かる為に苦労しているカップル程、パーフェクトベビーを望むようになる。これだけ金かけて苦労しているんだから…それも至極当然の摂理だが、精子がスペック分けされているのはパーフェクトベビー願望をついた、日本人である私から見るとアコギなビジネスである。
ただ日本では出来ないから、海外へ と言うのはある程度の富裕層が出来ることであって、海外へ行けないから子供を持つ事を諦める。
こんな日本にしないためにも患者の意思を最優先で尊重したいものだ。

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