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医療・健康・介護のニュース・解説

自立を支える(12)人生振り返る絵巻

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森田 まゆみ

 私が80歳代男性Aさんと出会ったのは3年半前。喉のがんの手術で声を失い、発声を補助する電気式人工喉頭の練習のため、私が勤める長崎県内の通所リハビリテーションに通って来られました。

 Aさんは長年「語り部活動」に携わり、戦争の悲惨さ、平和の尊さを伝えることに使命感を持っていました。「活動できなくなったのが残念」だと、筆談や身ぶり手ぶりで話してくれました。

 そこで、言語聴覚士と相談して「1年後に語り部に復帰する」という目標を設定し、人工喉頭の練習を始めました。初めは名前を言うのもやっとのこと。それでも、多くの励ましと並々ならぬ努力で、遂に1年後、修学旅行に来た小学生に自作の絵や資料を見せながら1時間の講話をすることが出来たのです。関係者の誰もが感激しました。

 ところが、がんが進行し、つらい症状が出てくると、気持ちも落ち込むように。社会的な活動をしていたからこそ、1人で買い物したり、人と交流したりと、自立した生活が送れていたので、活動を続けることが大切だと考えました。

 そのため、気持ちを支える方法として、人生を回想して表現することを勧めてみました。絵や写真とそれに添える文章で、これまでの活動や出来事を絵巻にして、今後の活動に生かそうと提案したのです。

 出来上がった絵巻は4・6メートルの大作で、Aさんが歩んできた人生が一望できるものに。「私に与えられた使命の大きさに感動」など希望に満ちた言葉で締めくくられていました。作品展で多くの人に見てもらい、自信と気力を取り戻して活動も続けられました。

 その後、家族に見守られ、自宅で静かに人生の幕を下ろしたAさん。強い意思と表現する豊かな才能を持った彼と歩んだ2年半は、私にとって、「生きること」に全力で取り組む支援ができた幸せな時間でした。(作業療法士)

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