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神戸大医学部付属病院 認知症

深化する医療

(中)正確な診断に画像検査法

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 認知症では「早期診断、早期治療介入」が重要だ。完治は難しいが、治療薬で進行を遅らせることができれば、自分らしく生きる時間を延ばせる。神戸大病院(神戸市中央区)では、認知症かどうかの判断が難しい早期の時点で正確な診断が可能な、最新の画像検査法を取り入れている。

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SPECTの検査機器を前に「認知症の早期発見や判別には欠かせない」と語る鷲田さん(神戸市中央区の神戸大病院で)=枡田直也撮影

脳の機能を調べる「ZSAM」の画像の一例。前後左右など8方向から見た血流の状況が分かる(石井・近畿大教授提供)

 「1年半ほど前から、ついさっき聞いたことを忘れるようになった」。昨年7月、兵庫県内の60歳代の男性が同病院を訪れて訴えた。

 診察した神経内科の鷲田和夫(38)は「アルツハイマー型認知症かもしれない」と考えたが、疑問も感じた。日常生活について詳しく聞くと、妄想や徘徊はいかいといった症状は見られず、体は健康で、お金の管理もできる。

 認知症の診断では通常、磁気共鳴画像(MRI)を撮影して脳の萎縮の有無を調べる。

 男性の場合、アルツハイマー型でよく見られる海馬の萎縮はわずかだった。加齢による物忘れの可能性もある。鷲田はSPECT(単一光子放射断層撮影)で検査することにした。

 SPECTは、特定の臓器や細胞に集まる放射性医薬品(RI)を体内に投与し、機能を調べる画像検査法だ。認知症では、RIの分布状況の画像から血流の状態を把握し、病気の進み具合を判断する。

 画像診断には、近畿大病院早期認知症センター教授の石井一成(53)が開発した解析ソフト「ZSAM」を用いる。前後左右など8方向からの画像やグラフが表示され、脳のどの部位でどの程度、血流が低下しているのか、一目で分かる。

 男性の場合、脳の後方にある後部帯状回こうぶたいじょうかいなどが、血流の低下を示す赤色になっていた。アルツハイマー型で機能異常が見られる部位だ。

 鷲田はアルツハイマー型と診断し、男性には治療薬のレミニールを出した上で、認知機能を保つため運動や読書などを勧めた。その後、男性の表情には明るさが戻り、状態は安定しているという。

 鷲田は「治療の開始が1年遅れれば、別人のように悪化するケースも多い。SPECTによる検査は欠かせない」と話す。

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 画像診断とともに行うのが、心理検査だ。

 「今日は何日ですか」「ここは何県ですか」などの質問に答えるMMSE(脳機能テスト)や、単語の書かれたカードをめくってその言葉を言ってもらうテスト、検査時の話しぶりやふるまいを通じて、記憶や言語に障害がないか、自分の居場所などの状況把握ができているか、といったことを調べる。

 検査には40~50分ほどの時間がかかる。発症への不安から、検査に抵抗を持つ患者もいる。だからこそ、担当する精神科神経科の臨床心理士、安達瑞穂(36)はできる限りリラックスして検査を受けてもらうよう心がけている。「家族に無理やり連れて来られた」という患者は、家族に対する愚痴もしっかり聞いてあげる。

 「一番不安なのは患者さん本人。そうした気持ちに寄り添いながら、検査の意味を丁寧に説明し、納得を得た上で検査を行うことが正しい診断につながる」(敬称略、米井吾一)

 
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