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「死の体験旅行」発病から自分見つめ

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「支えられて生きる」実感

物語が進むにつれて大切な人や物を書いた紙を捨てていく記者=松田賢一撮影

 「終活」や「しまいじたく」がブームの中、自分が病に倒れ、死を迎えるまでを仮想体験する、その名も「死の体験旅行」というワークショップが東京都内のお寺で開かれていると聞き、参加した。

 2月下旬の午後7時、東京都豊島区の「金剛院・蓮華れんげ堂」。参加者は記者を含めて20人。スーツ姿の男性から普段着の女性まで、30~40歳代が中心でほかの終活セミナーなどとは違った雰囲気が漂う。

 進行役の、横浜市神奈川区の寺院「倶生山ぐしょうさんなごみあん」で住職を務める浦上うらかみ哲也さん(41)が「怖いことはしません。つらかったら途中でやめて構いません」と語りかけて始まった。

 白、青、ピンク、黄の名刺大の紙が各5枚計20枚配られ、それぞれ自分が大切にしている物や自然、活動、人を記入し、目の前に並べた。「目を閉じたまま私が話す物語に耳を傾けてください。あなた自身の物語です」。照明を落とし、浦上さんの朗読が始まった。

 【あなたは2月末、胃の不快感を感じるようになった。薬を飲んでも良くならず、病院の診察を受けることに。精密検査の結果、手術を受け、放射線治療と化学療法を勧められる】

 「あなたの人生に大切なものを一つ失います。紙を1枚捨ててください」。浦上さんの指示に従い、紙を丸めて足元に捨てた。

 物語が進むにつれ、病状は悪化する。次々と紙に書かれた大切なものや趣味、人を捨てなければならない。「車」「旅行」「料理」を手放した。「友人」や「家族」を選ぶのは抵抗感が強く、手を伸ばすのがためらわれた。

 【眠る時間が増え、現実なのか夢なのか分からない。誰かが手を握り名前を呼ぶのが聞こえるが、わずかに握り返すことしかできない。呼吸は浅く、か細くなり、完全な静寂に包まれた】

 「最後の1枚を手放し、もう一度深く呼吸をしてください。最期の一呼吸です。今、あなたは命を終えました」

 別れを惜しむように、最後の1枚をそっと床に落とす音が会場に響いた。参加者からすすり泣きも漏れる。浦上さんが「あなたは今生きています。大切な人や物を手放してはいません」と語り、捨てた紙は拾って机に戻した。約30分たっていた。この後、参加者が車座になり感想を話し合った。ある女性は「亡くなった父親を思い出した」と明かした。

 ワークショップは元々、終末医療の従事者向けに作られた。本で知った浦上さんが「遺族の悲しみに寄り添うために」と2012年9月、看護師を講師に招き、仲間の僧侶と講習を受けた。13年1月からは大切な人に支えられて生きていることを実感してもらおうと、趣旨に賛同する寺院などで一般向けに開いている。

 生命保険会社勤務の黒澤杏奈さん(34)は「仕事でも個人としても、死について深く考える体験が必要と思いました。みとる側、みとられる側の思いや場面がイメージできた」と話す。妊娠中の妻を最後に残した登石といし陽介さん(29)は「いとしい人を残して逝くつらさが分かった。体験が終わって生きていることを実感した時、今のうちに大切にしようと思った」と語った。

 記者も最後の1枚に妻を選んだ。最期に手を握ってもらえるかは、今後の自分の行い次第だと肝に銘じた。(原隆也)

 ◆死の体験旅行 次回は4月27日午後7時から、東京都豊島区の金剛院で。参加費は3000円で定員は20人。問い合わせは、寺子屋ブッダterakoya@100hito.jp

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