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中村祐輔の「これでいいのか!日本の医療」

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クローン病の画期的新規治療薬…治癒に向けた第1歩か?

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 3月19日号の「New England Journal of Medicine」誌に、新規のクローン病治療薬のデータが公表された。イタリアのローマ大学Tor Vergata校からの発表で、結果は驚異的なものである。

 クローン病は消化管内で免疫反応が過剰になり、大腸や小腸で強い炎症を起こすため、腹痛や下痢につながる病気である。炎症がひどくなると潰瘍を作り、出血が起こる。さらにひどくなると、腸の壁に穴が開いて腹膜炎に至ることもある。

 10―20歳代で発症し、根治が難しく、いったん寛解かんかい(病気がよくなること)しても、再び悪くなることが大半で、これを繰り返す。そのため、患者さんのQOL(生活の質)は著しく低下する。また、症状が重篤なクローン病患者の多くが外科的治療法を受ける。

 この原因については、食事やそれの影響を受ける消化管内の細菌類の変化が関係していることが指摘されている。これらに加え、われわれは、日本人クローン病患者の遺伝的な要因として、HLAと呼ばれる臓器や骨髄移植後の拒絶反応に関わる分子やTNFSF15というサイトカイン(免疫物質を誘導する分子)の遺伝子の違いが関わることを報告している。

 今回の薬剤は、DNAを利用してSMAD7という分子の働きを抑えるようにデザインしたものである。少々難しいかもしれないが、この病気は上記の消化管内の細菌や免疫関係物質の影響で、SMAD7という分子が過剰に作られることが一因となっている。正常な消化管においては、TGFベータと呼ばれる物質が免疫の働きを抑え、免疫反応が過剰になりすぎないようにバランスをとっている。しかし、消化管でSMAD7が過剰に増えると、これがTGFベータの働きを妨げるため、免疫のバランスが崩れてしまうのである。

 クローン病は自己免疫疾患と呼ばれる免疫異常症のひとつであり、多くの自己免疫病では、免疫を活発にする側と免疫を抑える側の均衡が崩れ、免疫反応が異常に高くなっている。この論文で報告されている臨床試験では、病気の原因のひとつであるSMAD7の産生を抑えるためにDNA(=核酸医薬品)を利用した。21個の核酸をつなぎ、それを飲み薬として利用し、SMAD7の働くを抑えて、結果的にTGFベータの免疫抑制機能を高めたのである。


難病を難病とは呼ばせない努力

 私の感覚では、膵臓すいぞうから分泌されるDNA分解酵素によって、このような核酸医薬品は即座にばらばらになるのでは思うのだが、少し工夫を加えることによって、分解されず治療効果を発揮できたようである。私の頭では納得がいかない部分があるのだが、2週間の投薬で、偽薬(にせ薬)群と1日10mg群では2週間後に寛解した人が10%、12%であったのに対し、驚くことに1日40mg群と160mg群では55%、65%と半数以上で高い効果を示したのである。

 同じ雑誌で、ベルギーのVermeire医師が、この論文のデータを論評している。インフリキシマブ(商品名レミケード)では6週間後の寛解率が32.5%、そして、アダリムマブ(ヒュミラ)では4週間後の寛解率36%であるので、40mgと160mg群ではそれらよりも格段に秀でているのではと述べている。ただし、患者さんの条件が必ずしも同じでないので、慎重な比較が必要である。とはいえ、2週間の治療だけで、寛解に入った患者さんは、その後無治療でも平均3ヶ月間効果が続いていることを高く評価し、クローン病治癒に向けた第1歩だと述べている。

 難病を難病とは呼ばせない、そんな努力が世界中で続けられている。

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中村 祐輔(なかむら ゆうすけ)

1977年大阪大学医学部卒業、大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、1984-1989年ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。1989-1994年(財)癌研究会癌研究所生化学部長。1994年東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。1995-2011年同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005-2010年理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長を経て、2012年4月よりシカゴ大学医学部内科・外科教授 兼 個別化医療センター副センター長。

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