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(7)総括パネル討論…遺伝子革命 寿命延ばす
「専門外」の理解 マンガが有用
――遺伝子革命は未来の社会にどんな影響を及ぼすか。
ハント もし自分の子の遺伝子に致死的な変異が潜んでいたら、遺伝子工学の力で修正したいと誰もが思うだろう。それを狙った遺伝子治療は事を急ぎすぎて、「効かない」という悪い評判が立ってしまった。だが、状況は改善されつつある。遺伝子治療の将来には希望を持っている。
山中 遺伝子科学を含む医学研究の進展によって、人の寿命が延びることは確実だ。タイム誌には142歳まで延びるという予測が載っていた。しかし、高齢化の促進は幸せなことなのか。日本は高齢化が急速に進み、1人の若者が3~4人の高齢者を支えるような逆ピラミッドの社会構造になると言われている。こうした社会は持続可能ではない。
ハント ロボットが労働力不足の問題を解決してくれるのではないか。知的で優しいロボットがあなたをいやしてくれるのでは。
ビュートリッヒ 逆ピラミッドの時代を乗り越えるには、高齢者の労働生産性を高めることだ。肉体的に厳しいところをロボットなどに補ってもらえば、75歳まで生産性を上げることができると思う。
ファイアー 生物多様性の維持に遺伝子革命が使われるのならすばらしい。しかし、逆に多様性に制限をかける使い方には注意が必要だ。害虫を遺伝子操作で駆除するのは正しいことなのか。
ロバーツ 多様性が失われつつある中、いろいろな生物の遺伝情報をバイオバンクの中に残しておくのはいいアイデアだ。将来、貴重な資産になるだろう。
田中 よりよい未来図を描くためのキーワードはコミュニケーションだ。私は日本のマンガが役立つと思っている。マンガとは、要点を押さえた、簡略化された図を描くことだ。言葉が通じなくても、専門分野が違っても、マンガを使えばコミュニケーションができて、互いの理解を深めることができる。簡略化するため、誤解を生みやすいというリスクはあるが、誤解をおそれてはいけない。30年前の私の発見は、実は誤解がもとで生まれたものだった。
――誤解がいい結果を生んだ経験のある人はほかにいるか。
ハント 私の研究も常に誤解の連続だった。だが、間違ったことをやって、回り道をした結果、より真理に近づいたこともある。
山中 医師が誤解すると、患者を危険にさらしてしまう。でも、科学の世界では、誤解や混乱が、予想外の発見をするチャンスにつながる。私は勤務医を辞め、科学者になって本当によかった。
ビュートリッヒ 画期的な発見は、計画してできるものではない。研究資金を出す機関は、科学者に対して、ゴールを示すべきではない。偉大な発見は大きなグループからではなく、個人から出たものが多い。
――大人数・大型装置による巨大科学が牽引する分野もある。
ビュートリッヒ 巨大科学が必要な分野とそうでない分野を区別すべきだ。コンピューターを何百台つないでも、生命の謎を解明することはできない。生物学の画期的な発見は巨大科学からは生まれないと思う。
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