文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

神戸大医学部付属病院 認知症

深化する医療

(上)複数科連携 高精度の治療

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 認知症の高齢者(65歳以上)は、厚生労働省研究班が2013年に発表した推計値で462万人に上る。25年には約700万人にまで増え、5人に1人となる計算だ。徘徊はいかいして行方不明になったり、詐欺の被害にあったりする事例は社会問題にもなっている。根本的な治療法が見つからない中、神戸大病院(神戸市中央区)は、複数の診療科が連携し、多角的な治療を目指す。

■     □


大型画面に映し出された脳の画像を見ながら、治療方針を話し合う山本さん(左)と古和さん(神戸市中央区の神戸大病院で)=守屋由子撮影

 今年1月、兵庫県内の60歳代の男性が山中で倒れているところを発見された。動作が緩慢になるパーキンソン病を約5年前から患い、1、2年前から「ゴミ箱が子どもに見える」といった幻視や、「家族に悪口を言われている」という妄想に襲われるようになった。心配する家族らの言葉にも耳を貸さなかったという。

 男性はその日、幻視から逃れようと、家族の目を盗んで外出し、真冬の山に入ったらしい。一命は取り留めたが、認知症の疑いがあるとして、神戸大病院に搬送された。

 神戸大病院は01年に認知症の専門外来を開設している。昨年12月現在で全国289か所ある「認知症疾患医療センター」の一つだ。

 11年からは、精神疾患や心の問題を扱う「精神科神経科」の山本泰司(49)、神経変性疾患や脳血管障害などを受け持つ「神経内科」の古和久朋(44)らが連携して治療を行う。

 男性は、幻視や妄想といった精神面の症状と、パーキンソン病という運動面の症状が出る「レビー小体型」の認知症と診断された。精神科神経科へ入院したが、古和も治療方針の協議に加わった。

 認知症の治療は、投薬が基本となる。だが、レビー小体型は投薬のバランスが難しく、一方の症状が改善しても、もう一方が悪化する恐れがある。医師らは、男性に認知症の治療薬「アリセプト」をすぐには投与せず、まずは向精神薬で興奮状態を抑えた方がいいと結論を下した。向精神薬とパーキンソン病の治療薬を調整しながら投与。状態が安定した5週間後からアリセプトの服用を開始した。しばらくして男性は、幻視などはあっても、周囲の意見に耳を傾けられるようになった。

■     □

 精神科神経科と神経内科の連携は山本の発案だった。

 認知症の症状は、アルツハイマー型やレビー小体型といった病気の種類のほか、患者個々の性格や生活習慣によっても大きく異なる。「お互いの得意分野を生かすことが大切だと考えた」と振り返る。専門外来の医師は現在5人で、このうち3人が精神科神経科、2人が神経内科だ。

 古和は「たとえば、妄想の症状を抑える時に、どの薬をどれだけ使うかなどを精神科神経科に尋ねる。小刻み歩行や動作の鈍さなどが出てきた場合はアドバイスする立場になる」と語る。

 対応が難しい患者について月1回開く症例検討会では、画像診断に詳しい放射線科や、高齢者診療を受け持つ総合内科の医師らも加わる。脳の画像などを大型画面に映して所見や治療方針について意見を交わす。治療の経過を見ながら、数か月にわたって議論を重ねるケースもある。

 山本は「複数の診療科がそれぞれの強みを生かすことで、個々の患者の状態に合わせた精度の高い治療ができる。それが、完治しない病気で苦しむ患者や家族の期待に応えることになる」と強調する。(敬称略、米井吾一)

 

原因は多様…薬や運動、音楽療法も

 認知症には様々な種類がある。最も患者数が多いアルツハイマー型では、アミロイドβやタウという異常なたんぱく質が脳内で蓄積して神経細胞を死滅させ、その結果、脳全体が萎縮し、脳の働きが損なわれるとされる。記憶に関わる海馬、知覚や空間認知につながる後部帯状回こうぶたいじょうかいや頭頂葉、その内側の楔前部けつぜんぶに異変が起きる。

 脳血管性は、脳梗塞や脳出血が原因となって発症し、主に前頭葉が傷つく。

 レビー小体型は、「α―シヌクレイン」というたんぱく質が脳内にたまり、神経細胞が傷つくのが原因で、視覚などをつかさどる後頭葉などに異常が出る。発症初期は記憶障害が目立たない場合が多い。

 前頭側頭型は、前頭葉のほか、言葉の理解などに関する側頭葉に萎縮や変性が生じる。65歳未満で発症する「若年性認知症」で比較的多く見られる。

 国内で使える認知症の治療薬は、アリセプトのほかにもレミニール、リバスタッチ・イクセロン、メマリーの3種類がある。いずれも病気の発症や進行は止められないものの、アルツハイマー型で、言葉の出にくさや注意力などを改善する効果が認められている。リバスタッチ・イクセロンは貼り薬で、メマリーは主に、症状の進んだ患者に投与される。

 薬物を使わない治療としては、懐かしい思い出を語り合う回想法や、散歩や体操などの運動療法、合唱や楽器演奏などの音楽療法などがある。

 このほか、異常なたんぱく質の脳内での蓄積を抑えることで病気の発症や進行を食い止める根本治療薬の研究が、世界中で進められている。

 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

深化する医療の一覧を見る

神戸大医学部付属病院 認知症

最新記事