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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

医療とお金(24)くすりの重い副作用・感染被害には補償制度がある

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 ほとんどすべての薬には、副作用を起こす可能性があります。期待する作用(効能)とは別に、不都合な作用を人体にもたらしてしまうことがあるのです。薬がどんな影響をどれぐらい及ぼすかは個人差があり、ときには重い健康被害が生じることがあります。

 そういう被害の補償をするのが「医薬品副作用被害救済制度」です。1980年5月から政府が設けました。輸血を含む医薬品などによってウイルスなどの感染を受けたときは「生物由来製品感染等被害救済制度」があり、2004年4月から実施されています。

 どちらの制度も救済内容はほぼ同じで、医療費や治療中の手当、障害年金、亡くなった場合は遺族年金などを受け取れます。

 適正な使用で重い被害が生じたら、裁判をしなくても補償を受けられる仕組みなので、メーカーの過失も、製品の欠陥も、立証する必要はありません。

 ただし黙って待っていてもダメです。どちらの制度も、独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」(PMDA)が業務を担当しており、本人か遺族、またはその代理人が診断書、受診証明書、投薬証明書といった書類を添えて、PMDAに給付請求しないといけません。

入院や障害にあたるレベルの被害が対象

 認定されるかどうかのポイントは、重い被害、適正使用、因果関係の3点です。

 まず、被害の程度からいきましょう。補償の対象になるのは、次のいずれかにあたるレベルの健康被害です。

1 入院が通常必要な程度の症状

2 日常生活が著しく制限される程度の障害

3 死亡

 1は、軽症だと対象にならないわけですが、入院が絶対条件ではなく、症状が重ければ、いろいろな事情で通院だけしたときでも認められます。

 認定されたときの給付内容は、次の通りです。

医療費自己負担分
医療手当(入院・通院)月3万3200~3万5200円
障害年金(18歳以上)1級 267万2400円(月22万2700円)
2級 213万8400円(月17万8200円)
障害児養育年金
(18歳未満の被害者の養育者)
1級 83万5200円(月6万9600円)
2級 66万8400円(月5万5700円)
遺族年金(生計維持者の死亡)233万7600円(月19万4800円)×10年間
遺族一時金
(生計維持者以外の死亡)
701万2800円
葬祭料20万6000円

 障害の等級区分は、一般の年金制度の1級・2級と同じ考え方ですが、給付水準は一般の年金に比べ、高くなっています。

 請求できる期限は、医療費が副作用や感染に対する医療費の支払いから5年以内、医療手当はそれらの医療を受けた月の翌月1日から数えて5年以内。遺族への給付は死亡から5年以内(医療費・医療手当や障害年金などの給付を受けていた時は2年以内)です。障害年金、障害児養育年金には請求期限がありません。

「適正な使用」が条件

 副作用被害の救済は、薬事法による国の承認を受けた薬なら、保険適用かどうかは関係ありません。病院・診療所・薬局で投薬されるか処方を受けた医療用医薬品はもちろん、薬局・薬店で市販された一般医薬品も対象です。2014年11月25日以降は、再生医療製品(培養細胞を用いた製品)も対象になりました。

 ただし医薬品には、効能(どんな病気や症状のために使うか)、用法(食前、食後、食間など)、用量などが表示されています。そこから大きく外れた使い方をしていたら、健康被害が出ても、原則として救済対象になりません。

 たとえば、現代の医学水準から見て効能に合わない目的で使った場合、リスクを承知で多量に使った場合、使用上の重要な注意を無視した場合、明らかな不良医薬品などは、救済制度の対象外です。そういうケースで患者側が納得できないときは、製品の欠陥が原因ならメーカー、診療の際の判断や説明が問題なら処方した医師などの責任を問い、個別の交渉や裁判をするしかありません。

 また、抗がん剤、免疫抑制剤、一部の抗ウイルス薬、体外診断薬、人体に通常使わない動物用薬などは、制度の対象から除外されています。

 生物由来製品の感染等被害救済制度では、輸血を含む血液製剤、人や動物の組織または微生物を使った医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器(用具を含む)・再生医療製品が対象になり、感染後の発症予防や二次感染者にも給付されます。

 ワクチンにも、両方の制度が適用されますが、法定の予防接種だった場合は、この救済制度ではなく、予防接種法に基づく救済制度の対象で、より手厚い給付が行われます。

因果関係が壁になることも

 3つめの関門は、因果関係です。

 被害者から請求を受けたPMDAは、厚生労働大臣に判定を申し出ます。大臣は、薬事・食品衛生審議会の意見を聞いて、認定するかどうかを決めます。

 審議会では、薬の使い方のほか、因果関係が問題になることがあります。決定に不服があるときは、大臣への審査申し立て、それでもダメなら行政訴訟で争うことができます。薬害に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。

 副作用被害救済では、2013年度に1371件の請求があり、1240件の決定が行われました。うち1007件が支給決定(認定)で、約20億円の給付が行われました。同年度を含む過去5年間の認定率は85%です。

 近年認定されたケースの集計を見ると、原因となった薬剤で多いのは、解熱鎮痛消炎剤、抗てんかん剤、抗生物質、消化性潰瘍用剤、精神神経用剤、副腎ホルモン剤、脳下垂体ホルモン剤、合成抗菌剤、漢方製剤、総合感冒剤、ワクチン類、X線造影剤、痛風治療剤の順でした。

 症状で多いのは皮膚・皮下組織の障害(過敏症症候群、多形紅斑、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死融解症など)、肝胆道系障害(肝機能障害など)、神経系障害(低酸素脳症、悪性症候群など)、免疫系障害(アナフィラキシー様ショックなど)、血液・リンパ系障害(無顆粒球症、血小板減少症など)の順でした。

制度を知らない人が多い

 救済制度は、サリドマイド、スモン、薬害エイズ、薬害肝炎などの被害者の運動の積み重ねによって作られました。裁判をしなくても補償されるように作られたので、手続きに大きな労力はかからないのですが、残念ながら、あまり知られていません。昨年のネット調査では、制度を「知っている」と答えた人の割合は、一般国民で4.9%、医療関係者で52.3%でした。

 請求件数が年々増えつつも、まだ1000件台にとどまっていることから考えても、周知不足のせいで、健康被害のごく一部しか、請求されていないと思われます。

 せっかく制度があるのですから、薬の影響で大変な目に遭ったと思った時は、救済の対象にならないか、PMDAなどに相談しましょう。

・医薬品医療機器総合機構(PMDA)の相談窓口  0120-149-931

 被害者への給付費用は医薬品メーカーなどの拠出金でまかなわれ、PMDAの事務費用は拠出金と国の補助金が半々となっています。

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原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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