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いのちに優しく いまづ医師漢方ブログ

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漢方医学を現代の栄養学に活用する

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 わたしは、これまでに200回以上、大学や病院など、医師、薬剤師、看護師の皆様に、漢方医学のお話をしました。今回は、東京都三鷹市にある杏林大学医学部付属病院で、栄養学と漢方医学についてお話をする機会をいただきました。

 実は、私は栄養学を学生時代に学ぶ機会がなかったため、医師として働きながら、勉強しました。患者さんの体調を考えると、食事の管理は重要だからです。特に、手術を受けた後の栄養管理は、術後の経過を左右します。がん化学療法を受けている患者さんの栄養管理も、副作用を軽減するために大切なポイントになります。

 私は、日本静脈経腸栄養学会が行っている医師対象の研修会の講師をさせていただく際、実際の医療現場で栄養学が活用されるように、少しでもわかりやすく教えてきました。そこで今回は、杏林大学医学部付属病院のNST(栄養サポートチーム、Nutrition Support Teamの略)のみなさんに、私が学んできた栄養学と漢方医学の関わりについて、お話しさせていただきました。

 栄養状態を見るためには、二つの方法があります。ひとつは、SGA(Subjective Global Assessmentの略)、主観的包括的評価です。もうひとつは、ODA(Objective Data Assessmentの略)、客観的栄養評価です。

 SGAは、患者さんを実際に見て、触れて、感じて、栄養の状態を把握する方法です。「なんだか、顔色が悪い」「声に張りがない」などといった情報から、患者さんの全身状態を把握します。

 ODAは、患者さんの検査結果をもとに、数値を比較して栄養の状態を把握する方法です。入院患者1000人の評価を行う場合など、患者数が多くなったときに役立ちます。

 SGAとODAと、漢方医学がどう関わるか、疑問を持たれる方も多いと思いますが、「SGA=漢方医学の診断学」なのです。

 聴診器もなく、血液検査やレントゲンがない時代の医学である漢方医学の診断学は、まさに、患者さんを実際に見て、触れて、感じることで診断します。

 以前にも、このブログ(「自分の健康を知る方法(1)朝、舌を見る」)で書かせていただきましたが、舌の状態から、胃の状態を知る診察方法は、NSTに活用することが簡単にできます。また、検査データには表れない体調の変化を漢方医学では「」の異常として考えます(参照:「自分の健康を知る方法(9)「元気」を作る気力、体力、消化力」)。

 「何となく、元気がない」というのは、「気」が不足しているためです。元気がなく、気力がない患者さんには、体力も落ち、食欲もわかない(消化力が落ちている)状態と診断し、漢方医学では、「気」を増やす治療を行います。

 日常生活にも、このNSTは応用することができます。仕事が忙しく体が疲れているときは、いつもと同じ定食を選ぶのではなく、栄養価の高い食事にします。精神的にめいっているときは、胃腸に優しい消化のよい食事を選ぶといいでしょう。肉体も精神も、回復させるためには、栄養が必要なわけです。

 まだ栄養剤も点滴もなかった時代の漢方医学を現代の栄養学に活用することで、よりよい栄養管理をすることができるようになるわけです。

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いまづ医師の漢方ブログ_顔120

今津嘉宏(いまづ よしひろ)

芝大門いまづクリニック(東京都港区)院長

藤田保健衛生大学医学部卒業後に慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センター等を経て現職。

日本がん治療認定機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医

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1件 のコメント

消化器疾患の栄養・細菌治療 産業衛生学会

寺田次郎関西医大放射線科不名誉享受

産業衛生学会に来ています。健康増進のための健康食品のブースで会社の方とお話しました。医療は多方面から進歩していますが、古くて新しい「腸内細菌フロ...

産業衛生学会に来ています。
健康増進のための健康食品のブースで会社の方とお話しました。

医療は多方面から進歩していますが、古くて新しい「腸内細菌フローラのバランス」の概念も大事です。

飲食物は人間の身体の機能だけで消化吸収するのではなく、腸内細菌の力も重要です。

悪玉菌も本当に悪というよりは何らかの機能があって、なんかの時のために存在しているのではないかと思います。

下痢を誘発する菌も、体内に留めてはいけない食べ物が来た時などのためには大事です。

とはいえ、その人、その家系とその地域に合った細菌叢というのはある程度の幅があるのではないかと思います。

いま、潰瘍性大腸炎に便移植や菌移植なんかも行われていますが、精神的なハードルが高いので、あるいはこういった善玉菌飲料やカプセル薬品なんかも将来的には治療のオプションに入ってくるのかもしれませんね。

今でも散剤や錠剤はありますが、科学技術の進歩によっていろいろ変わるのかもしれません。

菌は摂取食物とセットですので、組み合わせは色々考えられますね。

また、消化器疾患だけでなく、全身の機能改善の手段にもなるかもしれません。

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