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院長「医師適格性に問題」…群馬大病院問題

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腹腔鏡「実績作り疑う」外部指摘

 

記者会見中、厳しい表情を見せる群馬大病院の野島美久病院長(右)(3日午前、前橋市で)=栗原怜里撮影

 群馬大学病院の腹腔鏡ふくくうきょう手術問題の調査で、病院側は死亡した患者8人全例で過失を認めた。8人が受けた手術など最終報告書で明らかにされた診療内容について、専門家は「極めて問題が大きい」と指摘する。

 同じ医師による開腹手術の死亡例10人についても病院が調査しているが、1人の診断書に、この執刀医による虚偽記載が判明。問題の根深さを物語っている。

 「医師としての適格性に問題がある」「もう少し早く問題を認識していれば」

 野島美久よしひさ病院長は3日、記者会見で語った。患者の死亡が相次いだ後も、手術を手がけた第二外科の責任者である教授や執刀医が高難度の手術を続けた。

 「手術後に出血や胆汁の漏れがあった例が多い。技術的に問題があるとしか考えられない」

 腹腔鏡手術を受け、死亡した8人の診療内容について、肝臓の腹腔鏡手術経験が豊富な関東地方の病院の外科医はそう語った。

 この外科医が注目したのは、死亡した患者の中で、肝臓の左半分を切り取ると同時に、胆管を切除して小腸とつなぐ手術を受けた人が3人もいることだ。この手術方法は、「細い胆管と小腸を縫ってつなげるもので、開腹でも難しく、縫い合わせが不完全になりやすい」。

 腹腔鏡手術は、腹部にあけた小さな切り口からカメラや器具を差し入れて行う。腹腔鏡手術で、胆管と腸を縫合するのは一般的により難しいとされる。

 外科医は「患者が亡くなっているのに検証もせず、同様の手術を繰り返すとは、極めて異常な事態。腹腔鏡手術の実績を作りたかったのではないかと疑いを持った」と手厳しい。

 実際、執刀医は精力的に学会発表を続けていた。この手術を受けて死亡した1人が生死の境をさまよっていた昨年4月、日本外科学会で手術成績を「おおむね良好な結果」と発表。昨年10月の日本内視鏡外科学会は、病院の調査が始まったため発表を取り下げたが、胆管と腸の縫合も「腹腔鏡手術で可能になった」と発表する準備をしていた。

 しかし、病院の調査報告では、教授や執刀医が、死亡者を出しながらも検証せず、難易度の高い腹腔鏡手術を繰り返した理由は何だったのか、不透明なままだ。

 記者会見で、報道陣からそのことをただされても、野島病院長が「執刀医は、この手術がベストな治療だと考えたということではないか」とするにとどまった。

 教授と執刀医は、病院側の調査に「申し訳ない」などと話しているという。

 遺族側の弁護団は現在、2人の患者について、専門の医師の協力も得て調査している。カルテや検査画像、手術映像を分析した結果、弁護団は「病院の調査や報告内容は不十分」としており、近く問題点をまとめ公表する考えだ。

 群馬大学病院の腹腔鏡手術問題 2010年12月~14年6月、第二外科による肝臓の腹腔鏡手術を受けた患者93人のうち8人が術後約3か月以内に死亡したことが昨年11月に発覚した。同12月には開腹手術でも09年度以降10人の死亡が明らかになっている。

 

「検証体制ずさん」

 

 肝胆すい(肝臓、胆道、膵臓)手術が専門の具英成ぐえいせい・神戸大肝胆膵外科教授の話「大変大きな過失と言わざるを得ない。これほど深刻な事態に至ったのは、診療科内で、手術能力の評価や手術成績の検証などチェック体制がずさんだったためではないか。腹腔鏡手術は傷が小さい利点があるが、開腹手術よりがんの治療効果が高いわけではない。この点に留意し、技術に習熟した医師が安全性や医療倫理に配慮しながら行うべきだ」

 

虚偽診断書「極めて重大」

 

 開腹手術を受けて死亡した10人を対象にした病院の調査も進んでいる。その過程で、1人の患者について、死亡後にがんでないことが判明したのに執刀医が遺族に伝えず、保険会社に提出する診断書に病名を偽って記載していたことがわかった。これに対し、野島病院長は記者会見で「極めて重大な問題」と語った。

 「刑法に抵触する可能性のあるケースであり、極めて悪質な行為ではないか」

 調査報告を公表した病院側の記者会見を聞いた遺族側弁護団の梶浦明裕・事務局長は指摘する。

 公務員がウソの内容の公文書を作成した場合、虚偽有印公文書作成罪などに問われる可能性がある。過去には、公立病院に勤める医師が、医療事故で死亡した患者の死亡診断書に虚偽の記載をし、有罪判決を受けた例もある。

 執刀医は、診断書の虚偽記載だけでなく、日常的な診療の経過をカルテに記載することさえ不十分で、あまりの記載の乏しさに、腹腔鏡手術を受けた死亡患者の調査報告書でも「検査や治療の方針を決めるまでの判断の過程が分からない」とされている。実際、遺族が保管していたカルテを見ると、執刀医による記載はほとんどなく、看護記録から経過をたどるしかないような状態。中には、カルテに記載された内容が事実と異なっているケースもある。

 梶浦事務局長は「診断書の虚偽記載や、カルテの記載がなかったり間違っていたりする問題についても、よく調査して今後の対応を検討したい」と話している。(医療部 高梨ゆき子、佐々木栄)

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