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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話

yomiDr.記事アーカイブ

死ぬまでに決断しておきたいこと

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 終末期や死に関する講演に呼んで頂くと、いつも非常に多くの参加者の方がいらっしゃいます。

 もっとも多いのは熟年以上の女性です。女性よりはだいぶ少なくなりますが、熟年以上の男性も参加されています。皆さんとても熱心で、うたた寝される方もいらっしゃらず、ノートやメモ帳を片手にひと言も聞きもらすまいという気持ちが壇上からもよく見えます。




 実は、日本人は死をよく考える人たちなのです。

 2011年の国際長寿センターによってされた「理想の看取みとりと死に関する国際比較研究」によると、「死についてよく考えるか?」との質問に対しての各国比較はこうなります(グラフは’理想の看取りと死に関する国際比較研究’より引用)。

 アメリカが0%なのが驚愕きょうがくです(!)

 しかもテロや紛争と背中合わせのイスラエルも次いで少ないです。

 日本は突出して多いのです。

 この調査はとても面白いので皆さんもご覧になると良いと思います。各国と違った特徴が垣間見えるものです。

 他にも、看取りの方針を選択する理由に生活の質(QOL)を挙げる割合が低く、一方で生存時間を挙げる割合が多いという特徴があります。

 世間一般の話を聞くと、「延命治療はしてほしくない」という方はたくさんいらっしゃいます。しかも、先述したグラフのように、どうも日本人は死について他国民よりよく考えているようです。

 その一方で、方針は「生存時間」重視、という興味深い傾向となっています。

 またこのように、ご本人はよく考えているにもかかわらず、あまり周囲に伝えられていないのではないか、私は現場での実感からそう思います。

 実際に、事前に何もご本人から家族に伝えられていなかったため、意思表示ができなくなってしまったご本人に代わって家族が迷いながら決断し、ご本人の意思が本当に反映されているのかが分かり難いというような例も多くありました。

 また家族が決断について迷った際は、わかりやすい尺度である「命の長さ」に時として傾きます。家族の間で延命重視か否かで意見が割れた時、延命治療に反対している家族も「自分一人の決断で命を縮めてしまうのはまずい」と思って苦悩の末に翻意し、延命重視にかじが切られることもあります。良い悪いではなく、そのような傾向がある、ということです。


 終末期や死の前後に自分の意思を反映したいと思う方が増えているのに比して、まだ現状はそれに呼応するくらいに変化していないと思います。

 死ぬまでに遭遇する決断を事前に為しておき、それを周囲に伝え、自身が意思表示できなくなった際の代理者を決定して家族に周知し、あるいは反映してもらいたい意思を紙に記し、そのありかを家族に教え、そうすることで人生の最後まで自身の思いを反映でき、またご家族も困らない、双方にとって悔いの少ない状況となるのではないかと思います。

 ところが実際は、以前の記事でも触れたように、詳しく話し合っている方は2.8%<人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書 厚生労働省 2014>。やや心もとないです。

 自身が終末期に、あるいは死の前後に「こうしてほしい」「こうしてほしくない」ということがあるのならば、できれば事前に決定して周知しておくのが良いでしょう。


 複雑化する社会において、決断しなければいけないことはとても増えています。特に現在は契約社会ですから、たくさんあるカード群を整理・解約するだけでもご遺族が疲れ果てた、などという話は何ら珍しいことではありません。

 ただまずは細々としたことよりも、もっとも大切にしてほしいことや、大きな方針を決めて、事前に知らせておくのが良いのではないかと思います。

 『死ぬまでに決断しておきたいこと20』では、人が終末期にしばしば遭遇する「AもしくはB」型の諸決断を挙げました。

 例えばこういうものです。

◯ 家で死ぬのか、病院で死ぬのか
◯ 身の回りのものは処分するか、否か
◯ 葬儀をするのかしないのか


 この決断次第で、自身の最後の時間ばかりではなく、残された方の未来まで変わってくることがあります。

 一方で、来し方行く末を話し合いたくても、家族が乗って来てくれなかった、という話もよく聞くところです。

 「縁起悪いからそんな話するなよ」

 自分の余命があと何か月ではないかと悟った80代の母が50代の息子に話したところ、返って来た言葉はそれで、彼女は泣きました。

 どうか『死ぬまでに決断しておきたいこと20』を話し合うきっかけに使ってほしいと思います。本をきっかけに話が弾んで、良い準備をするためにはしばしば妨げとなっている「死を話し合うこと」のタブー視が少しでも解消されると良いと思っております。

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専門家に聞きたい!終末期と緩和ケアの本当の話_profile写真_大津秀一

大津 秀一(おおつ しゅういち)
緩和医療医。東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター長。茨城県生まれ。岐阜大学医学部卒業。日本緩和医療学会緩和医療専門医、がん治療認定医、老年病専門医、日本消化器病学会専門医、日本内科学会認定内科医、2006年度笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。内科医としての経験の後、ホスピス、在宅療養支援診療所、大学病院に勤務し緩和医療、在宅緩和ケアを実践。著書に『死ぬときに後悔すること25』『人生の〆方』(新潮文庫)、『どんな病気でも後悔しない死に方』(KADOKAWA)、『大切な人を看取る作法』『傾聴力』(大和書房)、『「いい人生だった」と言える10の習慣』(青春出版社)、『死ぬときに人はどうなる』(致知出版社)などがある。

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