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最新医療~夕刊からだ面より

医療・健康・介護のニュース・解説

口の中の細菌…全身の健康に影響

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 口の中の細菌が、手術の入院期間や糖尿病、心臓病のリスクに影響を与えることが分かってきた。毎日の丁寧な歯磨きが、全身の健康を守る第一歩となる。


糖尿病などリスク

 口の中には500種類以上の細菌が生息し、口の中の栄養分を吸収して半日もたつと歯垢しこうを作る。歯垢1グラム中の細菌は約1000億個。1~2日放っておくと、水あかのようにぬめりを持って歯にくっつく。

 この細菌を取り除くと、手術患者の入院期間が短くなるという報告がある。

 千葉大では2009年から、入院患者に対し、歯科医らが口の中の専門的なチェックや清掃を行っている。09年~13年に胃がんや食道がんの手術前にこの清掃を受けた患者の平均入院日数は29日で、看護師が通常の歯磨きをしていた04年~08年の42日に比べ、大きく減った。心筋梗塞などの心臓手術でも39日から29日に短縮された。

 千葉大教授の丹沢秀樹さん(口腔科学)は「口の中の細菌を減らすことで、体の免疫力が温存でき、回復が早まると考えられる。細菌が口から肺に入り、肺炎を起こすリスクも減ったのでは」と話す。

 国保旭中央病院(千葉県旭市)は、手術や放射線治療、抗がん剤の治療で患者が入院すると、担当医から歯科医に連絡が入り、歯科医たちが口のケアを実施する仕組みを導入している。

 歯科医は手術前に、細菌がたまりやすい歯と歯肉の間に隙間がないかなど、患者の口の中の状態をチェック。さらに、虫歯を治療したり、とがった歯を削ったりする。とがった歯は舌や歯ぐきを傷つけ、細菌が体内に入って感染症の原因となるからだ。歯科衛生士は専用の器具を使って歯垢を除去する。同病院歯科・歯科口腔外科部長の秋葉正一さんは「様々な場所にひそむ細菌を徹底的に取り除く」と説明する。

 歯周病と糖尿病が相互に悪影響を及ぼし合うことも分かってきた。歯周病を起こす細菌は、歯茎で炎症を起こす。炎症で生じる物質がインスリンの活動を妨げ、糖尿病を悪化させる。逆に糖尿病で血糖値が高いと歯茎の炎症が強くなり、歯周病が悪化する。

 東京医科歯科大などが糖尿病患者に、薬などによる糖尿病そのものへの治療に加え、細菌を取り除く歯周病治療を行ったところ、血糖の状態を示すヘモグロビンA1cの値が下がった。一方、薬などで糖尿病を治療できると、歯周病の症状が改善した。同大歯学部教授の和泉雄一さん(歯周病学)は「効果には個人差があるが、糖尿病と歯周病を合わせた総合的な治療が大切だ」と話す。

 口の中の細菌は体内に入ると、血管を詰まらせて心筋梗塞や脳梗塞の要因となり、高齢者では肺炎を起こしやすくなる。妊婦では、細菌の出す炎症物質が低体重児の出産や早産につながるリスクを高めるとの指摘がある。

 細菌は通常食事によって胃に流され、数はいったん減るが、その後時間の経過とともに増える。秋葉さんは「食後に加え、寝る前の丁寧な歯磨きが大切だ。起床後も磨いてほしい」と呼びかける。力を加え過ぎず、1本ずつ磨く。歯のくぼみを丁寧に磨き、歯と歯の間は糸式ようじを使う。磨き残しがあると、歯垢が硬い歯石に変化して、歯磨きではとれなくなるので、定期的に歯科で除去してもらう。(米山粛彦)

 
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