臨床の現場から
からだコラム
[臨床の現場から]病歴や背景 個別に診る
エビデンス・ベイスト・メディシンという言葉をご存じですか?根拠に基づいた医療(EBMと略)と訳します。
医師が自分の経験に基づいて薬で治療して有効であっても、それが別の患者さんにも効くとは限りません。独りよがりな医療になる危険性があると考えた米国の医師が、同じ病気の患者さんをたくさん集めた客観的な試験で、効果があると認められた薬で治療するのが良いと、1990年に提唱したのがEBMです。最新の医学的知見に基づいて、良心的に治療を行おうとする考えです。
しかし、試験で選ばれた薬でも副作用が強く服用できない場合もあります。また、有効と認められても、5分の1以上が2年以内に評価が覆されると言われています。患者さんの状態に合った治療を見つけることが重要ですが、一時はEBM以外は医療ではないという風潮となっていました。
一方、根拠になるデータが確立していない病気、複数の病気を抱えた高齢者、精神的な病気などは、EBMだけでは対応できないと考える医師も多くいました。98年に英国の医師が病歴や病気に至った背景を詳しく聞き、患者さんを全人的に診ていくナラティブ・ベイスト・メディシン(物語に基づいた医療―NBMと略)を提唱しました。
NBMは、客観的な医学的知見を十分知った上で、患者さんの個別的な状況を考慮して、治療を行うものです。
すべてを吟味することはとても不可能なほど医学的知見は、日々大量に発表されています。私たち医師は、常にできる限りの情報を集め、得られた知識と患者さんからの情報を総合して診療しているのが現状です。(山本紘子・藤田保健衛生大名誉教授)
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